なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 結城さんに渡されたふわふわのバスタオルで髪と身体を拭いて、下着とパジャマを身に着ける。

 メイクを落とした素顔を見られることに躊躇して、――でも、一緒に暮らすんだからどうにもできないと覚悟を決めて、リビングへと向かう。

 リビングのドアを少しあけたところで、

「――俺の問題だ。おまえに心配されることじゃないよ」

 いつもよりぞんざいな結城さんの声が聞こえてきた。思わず動きを止めたところで、「じゃあ、これで」と短い応対が続き、――ああ、電話をしていたのだなと理解する。

 リビングに沈黙が訪れてから、まるでちょうど今やってきたというように、大きくドアをあけた。
 ソファの背もたれ越しにこちらを振り返った結城さんは、少しだけ戸惑ったような顔をしたのちに、

「広瀬さん」

 私を呼んで、微笑した。

「お風呂、お借りしました」

 私がちいさく頭を下げれば、結城さんがソファから立ち上がる。

「そんなに恐縮しないで。ここは今、広瀬さんの家でもあるんだから、何でも自由に使ってください」

 いつもと同じ、穏やかな声。「ありがとうございます」とためらいがちに応じながら、思いがけず聞いてしまった、ぞんざいな声との落差に戸惑う。

 偽りの婚約――それを持ちかけたのは結城さんだ。
 結城さんも、何らかの事情を抱えている。

 亡くなったお父さんが1億円もの保険金を残してくれたのに、どうにもならないくらい困窮していた私のように。
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