なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~

 ピピピ、とアラームが鳴る。

 夢を見た。
 高校生の頃、アルバイト先のカフェで勉強を教えてもらったときの夢だった。薄闇の中でのろく瞼をひらきながら、短い感傷に浸った。

 上体を起こして、足先を床につける。ベッドからゆっくりと立ち上がって、遮光カーテンをあける。途端、室内が白い眩さに染まる。
 圧倒的な眩さの中で、あの夢の続きを思い返す。

 あのひとに勉強を教えてもらった日を最後に、私はアルバイトを辞めた。

 ――お姉ちゃんの大切な時期だから、真理菜ちゃんも協力しなきゃ。

 ――真理菜ちゃんの、大切なお姉ちゃんなんだから。

 お姉ちゃんが音大の受験に専念できるように、お母さん――芙美子(ふみこ)さんがお姉ちゃんを全力でサポートできるように、料理も、洗濯も、掃除も、家のこと全部が私の仕事になったから。

 お姉ちゃんが有名な先生のレッスンに通っているあいだに、私は夕食を作って、お風呂の掃除をする。放課後にクラスメイトと遊ぶこともできなくて、クラスの中で孤立した。成績も下がって、学年主任の先生に呼び出された。「だって」も「でも」も言えなくて、ぎゅっとくちびるを噛みしめても、誰も。

 誰も、私に魔法をかけてはくれなかった。

 だから、二階の奥、西日が差し込む突き当りの部屋。私だけの、小さな図書館。
 本の世界に飛び込んで、幸せな物語に浸るときが、唯一私の慰めだった。本の世界の中では、私はガラスの靴を履いて、綺麗なドレスの裾をひらめかせるお姫様になれた。

 だけど、大切な本棚も捨てられて、お父さんの愛にすら手が届かなくなった。
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