なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 お父さんと芙美子さんは、再婚同士だった。私は、お父さんと、ずっと昔に病気で亡くなったお母さんの娘。お姉ちゃんは、芙美子さんと、離婚した元旦那さんの娘。

 お父さんが亡くなってしまったら、血の繋がらない私が、ひとりぼっちになるのは当然のことだった。

 血の繋がらない子供の面倒を見てあげているのだから、お父さんが残してくれた保険金は芙美子さんが管理するもので、私がお姉ちゃんのために尽くすのは当然のことだった。

 成績の悪い私が、大学の学費を出してもらえないのも当然のことだった。

 その結果、多額の奨学金の返済を抱えた私が、物語のヒロインになんてなれるわけがない。
 今でも、そう思っている。

 ――だけど。

 眠たい目を擦る仕草で、目元を拭った。そうして、リビングへ続くドアをあけたとき、

「――っ!」

 髪先から落ちる水の粒が、透明なきらめきを反射した。
 濡れた前髪の隙間から私に眼差しを向けた結城さんの、輪郭がまとう淡い影はまるで清涼だけれど。
 白い朝にさらされた、均整の取れた腕や胸板は十分に色めいていた。

 立ち尽くす私に、

「――失礼」

 結城さんは短く言い置いた。そうして、髪を拭いていたタオルで肩のあたりをざっと拭くと、ソファに置いていたラフなシャツに腕を通す。ハーフパンツとおそろいの、コットン素材のものだ。

 前髪を軽く掻き上げて、私に向き合った結城さんは、

「すみません、一緒に暮らすようになったのに……以後気を付けます」

 ばつが悪そうな顔で、そう言った。「いえ、こちらこそ」などと、私はしどろもどろに返す。

 一呼吸の間合いの、微妙な沈黙。
 それをうやむやにするように、結城さんが口をひらく。

「おはようございます」

 穏やかで、ありきたりな挨拶。

「おはようございます」

 おうむ返しみたいに口にしたら、何となく心が落ち着いた。

 微かな衣擦れの音をさせながら、結城さんがキッチンへと向かう。

「コーヒーを淹れますね」

 白い眩さの中に、あなたの息遣い。

「……あ、コーヒーなら私が、」

 はっとして、私もキッチンに向かうけれど、「座ってて」と柔らかく制された。

 おずおずとソファに腰掛ければ、やがて、華やかな香りがふつふつとふくらむ。

 ヒロインになんてなれるわけがないと、今でも思っている。
 だけど、私が息をする世界の、匂いや眩さが少しだけ変わった気がして、私はささやかに戸惑っている。
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