なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
「学部はどちらになりますか?」
不躾にならないよう、声のトーンに気をつけながら、樋口さんに尋ねた。
「文学部の……英米科です」
樋口さんはぎこちなく答えてくれた。
私は、「そうなんですね」と相槌を打つ。その流れのまま会話を続ける。
「イギリス文学だと、私は児童書が好きです。楽しくて幸せなお話も好きだし、『幸福な王子』みたいに、優しくて苦しい話も。樋口さんは、どんな本が好きですか?」
「私、は……」
樋口さんが眼差しを伏せる。ゆっくりと息を吸うような間合いがあってから、樋口さんは言った。
「イギリスのファンタジーが好きです」
「ああ、ファンタジーも素敵ですよね!」
私が笑みを深めると、樋口さんはどこかホッとしたような表情をする。
そんな彼女に、私は重ねて問いかけた。
「ファンタジーの、どういうところが好きなんですか?」
「……えっと……」
考え込む顔をした樋口さんは、迷いながらと言った口調で答える。
「ドキドキするところ……です。魔法とか妖精とかタイムリープとか……子供の頃から憧れた世界で、かけがえのない運命を生きている感覚になれるところ」
そう言った樋口さんがはっと目を瞬いて、途端に恥じ入った顔をする。
「すみません……変なこと、語っちゃいました」
目を逸らして俯こうとする樋口さんに、
「何も変じゃなかったです!」
勢い込んで言い切る。声のボリュームが上がってしまいそうになったから、慌てて囁き声にした。
「すごく素敵です。かけがえのない運命って表現が特に好きでした」
「……ありがとうございます」
樋口さんが、戸惑った顔をする。そんな彼女を、分類記号933――英米文学、小説・物語のコーナーに案内する。
「樋口さんの好きな本を教えてください」
問いかけると、彼女は戸惑った顔のまま書棚を見て、ある一冊の本で視線を止めた。心と引き換えに魔力を手にした、にせものの魔法使いが登場するファンタジー小説。
おずおずと腕を伸ばして、背表紙に指先を触れさせて、樋口さんが本を手に取る。
窺うように私を見た彼女に、笑いかける。
「私は、そちらの本をおすすめします」
「え、」
「好きな本のことなら、話したくなりませんか?」
ビブリオバトルのプレゼンでも、きっと本の魅力を話したくなる。
今、私に話してくれたみたいに。
数秒、樋口さんは戸惑った顔をした。だけど、ブックコートフィルムで補強された表紙をしばし見つめたのち、彼女は表情を和らげる。
「そう……ですね。この本の魅力なら、何時間でも話せます」
まるで何か憑き物が落ちたように、樋口さんは晴れやかに笑った。
「せっかくおすすめしてもらったのに、すみません。この本は自分で持ってるので、今日は借りずに帰ります。ありがとうございました!」
軽やかな足取りの彼女を見送ってから、返却図書の配架に戻る。
私の足取りも、心なしか軽い。
書棚の間を歩きながら――私はやっぱり、司書という仕事が好きなのだと改めて思った。
けっして一人前じゃなくて、半人前の非常勤職員だけど。
だけど、叶うなら――ずっと図書館で働いていたい。
不躾にならないよう、声のトーンに気をつけながら、樋口さんに尋ねた。
「文学部の……英米科です」
樋口さんはぎこちなく答えてくれた。
私は、「そうなんですね」と相槌を打つ。その流れのまま会話を続ける。
「イギリス文学だと、私は児童書が好きです。楽しくて幸せなお話も好きだし、『幸福な王子』みたいに、優しくて苦しい話も。樋口さんは、どんな本が好きですか?」
「私、は……」
樋口さんが眼差しを伏せる。ゆっくりと息を吸うような間合いがあってから、樋口さんは言った。
「イギリスのファンタジーが好きです」
「ああ、ファンタジーも素敵ですよね!」
私が笑みを深めると、樋口さんはどこかホッとしたような表情をする。
そんな彼女に、私は重ねて問いかけた。
「ファンタジーの、どういうところが好きなんですか?」
「……えっと……」
考え込む顔をした樋口さんは、迷いながらと言った口調で答える。
「ドキドキするところ……です。魔法とか妖精とかタイムリープとか……子供の頃から憧れた世界で、かけがえのない運命を生きている感覚になれるところ」
そう言った樋口さんがはっと目を瞬いて、途端に恥じ入った顔をする。
「すみません……変なこと、語っちゃいました」
目を逸らして俯こうとする樋口さんに、
「何も変じゃなかったです!」
勢い込んで言い切る。声のボリュームが上がってしまいそうになったから、慌てて囁き声にした。
「すごく素敵です。かけがえのない運命って表現が特に好きでした」
「……ありがとうございます」
樋口さんが、戸惑った顔をする。そんな彼女を、分類記号933――英米文学、小説・物語のコーナーに案内する。
「樋口さんの好きな本を教えてください」
問いかけると、彼女は戸惑った顔のまま書棚を見て、ある一冊の本で視線を止めた。心と引き換えに魔力を手にした、にせものの魔法使いが登場するファンタジー小説。
おずおずと腕を伸ばして、背表紙に指先を触れさせて、樋口さんが本を手に取る。
窺うように私を見た彼女に、笑いかける。
「私は、そちらの本をおすすめします」
「え、」
「好きな本のことなら、話したくなりませんか?」
ビブリオバトルのプレゼンでも、きっと本の魅力を話したくなる。
今、私に話してくれたみたいに。
数秒、樋口さんは戸惑った顔をした。だけど、ブックコートフィルムで補強された表紙をしばし見つめたのち、彼女は表情を和らげる。
「そう……ですね。この本の魅力なら、何時間でも話せます」
まるで何か憑き物が落ちたように、樋口さんは晴れやかに笑った。
「せっかくおすすめしてもらったのに、すみません。この本は自分で持ってるので、今日は借りずに帰ります。ありがとうございました!」
軽やかな足取りの彼女を見送ってから、返却図書の配架に戻る。
私の足取りも、心なしか軽い。
書棚の間を歩きながら――私はやっぱり、司書という仕事が好きなのだと改めて思った。
けっして一人前じゃなくて、半人前の非常勤職員だけど。
だけど、叶うなら――ずっと図書館で働いていたい。