エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
入口に立っていた、きりりとした雰囲気の男性スタッフさんに案内されて、ガラスのショーケースの前に来た。正俊さんは、エンゲージリングを選びに来たのだと気負いのない声で言った。
そのままショーケースを見ながら指輪を選ぶのかと思ったら、柔らかな雰囲気の女性スタッフさんに、奥の席まで案内された。おずおずと腰掛けた二人掛けの革張りのソファは、固すぎず柔らかすぎずの絶妙の座り心地で、快適なはずなのに何だか落ち着かない。隣に座る正俊さんに視線を向けるけれど、正俊さんの方は特に気負った様子もない。正しい姿勢でゆったりと腰掛けている。
正俊さんが私の視線に気づく。こちらを向いた彼がふっと微笑む。その微笑みを受け止めて、私もぎこちなく笑う。私たちが視線を外して、それぞれ正面を向いたところで、女性スタッフさんが感じよく接客を始める。
「本日は、エンゲージリングをお探しと伺っておりますが」
「はい。彼女が、一番喜んでくれる指輪を贈りたいんです」
「承知いたしました」
にこりと笑ったスタッフさんが、私に向き直る。
「お心に沿うリングが見つかるよう、お手伝いさせていただきます。何なりとお申しつけくださいね」
「は、はいっ」
声が変に上擦ってしまった。こんなに丁寧に接客されるのは初めてだから、緊張も最高潮だ。
スタッフさんに好きなデザインを聞かれて「派手ではないものが……」と答える。答えてから、ネガティブな言い方だったかなと正俊さんにもスタッフさんにも申し訳なくなった。
それでも、スタッフさんは気を悪くした様子なんて見せず、「華奢なデザインをいくつかお持ちしますね」とにこやかに席を立つ。
ややあって戻ってきたスタッフさんは、ベルベット地のジュエリートレイをガラスのテーブルの上に置いた。
「綺麗……」
ジュエリートレイに並んだ指輪を見た途端、思わず声が出た。
「ぜひ、お手に取って嵌めてみてください」
スタッフさんが声をかけてくれるけれど、どの指輪も高貴なきらめきを放っているから、それじゃあと指を伸ばすことが躊躇われる。
きっと私は、愛想笑いと困惑のあいだみたいな表情を浮かべて途方に暮れていた。
そんな私に、正俊さんが尋ねる。
「真理菜さんは、どれが好き?」
「わ……私は、ええと……」
言葉を迷わせながら、きらめく指輪たちを見つめる。
どれも綺麗。私にはもったいないくらい。それでも、私が好きな指輪を選んでもいいのなら――。
「この……正方形の石のものが」
おずおずと手のひらで示したのは、ごく細身のメビウスの帯を、2つ組み合わせたようなデザインの指輪。流線的な帯と、その間に嵌め込まれた直線的な石とのコントラストが素敵だと思った。
「きっとお似合いになると思います。ぜひ、嵌めてみてください」
スタッフさんが声をかけてくれる。はい、と頷いたものの躊躇していると、
「真理菜さん、手を」
正俊さんが、私に向かって手のひらを差し出した。
そのままショーケースを見ながら指輪を選ぶのかと思ったら、柔らかな雰囲気の女性スタッフさんに、奥の席まで案内された。おずおずと腰掛けた二人掛けの革張りのソファは、固すぎず柔らかすぎずの絶妙の座り心地で、快適なはずなのに何だか落ち着かない。隣に座る正俊さんに視線を向けるけれど、正俊さんの方は特に気負った様子もない。正しい姿勢でゆったりと腰掛けている。
正俊さんが私の視線に気づく。こちらを向いた彼がふっと微笑む。その微笑みを受け止めて、私もぎこちなく笑う。私たちが視線を外して、それぞれ正面を向いたところで、女性スタッフさんが感じよく接客を始める。
「本日は、エンゲージリングをお探しと伺っておりますが」
「はい。彼女が、一番喜んでくれる指輪を贈りたいんです」
「承知いたしました」
にこりと笑ったスタッフさんが、私に向き直る。
「お心に沿うリングが見つかるよう、お手伝いさせていただきます。何なりとお申しつけくださいね」
「は、はいっ」
声が変に上擦ってしまった。こんなに丁寧に接客されるのは初めてだから、緊張も最高潮だ。
スタッフさんに好きなデザインを聞かれて「派手ではないものが……」と答える。答えてから、ネガティブな言い方だったかなと正俊さんにもスタッフさんにも申し訳なくなった。
それでも、スタッフさんは気を悪くした様子なんて見せず、「華奢なデザインをいくつかお持ちしますね」とにこやかに席を立つ。
ややあって戻ってきたスタッフさんは、ベルベット地のジュエリートレイをガラスのテーブルの上に置いた。
「綺麗……」
ジュエリートレイに並んだ指輪を見た途端、思わず声が出た。
「ぜひ、お手に取って嵌めてみてください」
スタッフさんが声をかけてくれるけれど、どの指輪も高貴なきらめきを放っているから、それじゃあと指を伸ばすことが躊躇われる。
きっと私は、愛想笑いと困惑のあいだみたいな表情を浮かべて途方に暮れていた。
そんな私に、正俊さんが尋ねる。
「真理菜さんは、どれが好き?」
「わ……私は、ええと……」
言葉を迷わせながら、きらめく指輪たちを見つめる。
どれも綺麗。私にはもったいないくらい。それでも、私が好きな指輪を選んでもいいのなら――。
「この……正方形の石のものが」
おずおずと手のひらで示したのは、ごく細身のメビウスの帯を、2つ組み合わせたようなデザインの指輪。流線的な帯と、その間に嵌め込まれた直線的な石とのコントラストが素敵だと思った。
「きっとお似合いになると思います。ぜひ、嵌めてみてください」
スタッフさんが声をかけてくれる。はい、と頷いたものの躊躇していると、
「真理菜さん、手を」
正俊さんが、私に向かって手のひらを差し出した。