エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
 マンションの近くには大きな公園があって、常緑樹の色合い瑞々しいその場所からは、正俊さんが働く霞が関のビルが見える。

「正俊さんのお仕事は……文部科学省の官僚さんって、どういうお仕事なんですか?」

 木漏れ日が落ちる遊歩道を歩きながら、ふと思い立って尋ねてみた。図書館で副館長をしていた正俊さんのことは知っているけれど、文部科学省の官僚として働く彼のことは知らない。

「俺の仕事か……。そうですね……」

 少しだけ考え込む表情を見せたあと、正俊さんは端的に答えた。

「国家的な政策を滞りなく進めること、になると思います」

「……なるほど?」

 相槌を打ってみたものの、スケールが大き過ぎて全く想像ができない。
 困惑が顔に出ていたのか、私の方を見た彼が微笑んで説明を追加してくれる。

「具体的には、ステークホルダー……つまり利害関係者との合意形成ですね」

「合意形成……」

「ええ。政策を進めるためには、あらゆる方面との合意形成が不可欠です。あるひとつの法案によって利益を得る団体があれば、反対に不利益を被る団体もあります。不利益を被る団体は当然その法案を通したくありません」

「それは……確かに」

 大いに納得しながら頷くと、正俊さんが少し悪戯っぽく笑う。

「だけど、国の方針として法案を成立させなければならないなら、反対する団体を説得しなければいけません。そのために説明に飛んで行ったり、資料を作ったり、情報を集めたり……まあ、使いっ走りの何でも屋です」

 正俊さんは気軽な声で言った。でもきっと、こんなに簡単なことみたいに自分の仕事を説明できるのは、正俊さんが優秀だからだ。
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