エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
「この前……本屋さんに行った帰りに買ったんです」

 電子書籍の雑誌を見ながら頑張った、緩やかな編み込みのシニヨン。そこに添えたガラスビーズのヘアピンは、青い薔薇をかたどったものだ。

 綺麗なものを身につけるときの、決まり悪さと慄きを覚えながら言った。こんなにキラキラしたものは私には似合わないんじゃないかって卑屈な考えも、まだ頭にこびりついている。

 だから、どこか心細いような気持ちで曖昧に笑うと、正俊さんは柔らかに目を細めた。

「よく似合っています」

「ありがとうございます……」

 ほっとした心地でお礼を言った。そこで会話が途切れて、重なったままの視線が照れくさくなって、そっと眼差しを逸らした。

「……メイク、もう終わります」

「ゆっくりで構いませんよ」

 彼に曖昧に微笑んで、スタンドミラーに向き直る。歪んでしまったアイラインをアイシャドウの締め色で馴染ませて、最後にくちびるにリップを塗って仕上げる。リップは、繊細なパールがきらめくモーヴピンク。

「できました」

 正俊さんに声を掛けながら、コスメ用のポーチにリップを仕舞う。リップは今日のために買った色だし、全体的にいつもより濃いめのメイクだから、正俊さんと目を合わせるのが何となく恥ずかしい。鏡の中の自分は、一応それなりにちゃんとして見えたけれど――。

 伏し目がちのまま彼に向き合うと、

「真理菜さん」

 丁寧に名前を呼ばれた。ぎゅっとくちびるを結んで顔を上げると、彼が私の目を見て微笑む。

 今日の正俊さんは、チャコールグレーのスリーピースのスーツ。フォーマルだけれど、ストライプ柄のシャツとワインレッドのネクタイだから、仕事のときのようなかっちりとした雰囲気とも違う。ワックスで後ろに流された前髪もいつもと違って――胸が変に高鳴ってしまう。

「手を出してください」

 指輪を持つ彼にそう言われたら、今日はちゃんと左手を出す。そっと包み込むみたいに手を握られる。そうして、薬指に指輪を嵌めてもらった。ダイヤモンドの繊細で上品なきらめきが、私の輪郭に光をまとわせる。

 今日の私の装いは、正俊さんから贈られた淡いブルーのワンピース。上から羽織る真っ白なコートも、ブルーの華奢なパンプスも、全部彼が用立ててくれた。
 まるで、違う私になったみたい。緊張しながら彼と向き合う私に、彼は余裕めいた笑みで囁く。

「とても綺麗です」

 ――まるで、幸せな魔法にかけられたみたい。
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