エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
正俊さんが門のインターホンを鳴らすと、「はい」と朗らかな女性の声が応じた。
「事務次官のご招待で参りました。結城正俊です」
正俊さんが名乗ると女性の返事があって、瀟洒な門がひとりでにひらく。
「行きましょう」
彼に促されて、邸宅の敷地内に入った。白い石畳のアプローチを歩いて、ダークブラウンの木製の扉に辿り着く。
玄関のインターホンも鳴らそうとしたところで、内側から扉がひらいた。
「本日はお嬢様の誕生日パーティーに、ようこそお越しくださいました」
エプロン姿の女性が出迎えてくれる。
「こちらこそ、ご招待ありがとうございます」
正俊さんが会釈で応じ、私も慌ててぺこりと頭を下げる。
まるで、お城みたいな場所だと思った。繊細な光をきらめかすシャンデリアや大理石の床、ロイヤルブルーの玄関マット――内装品のすべてに気品があって、空気さえもキラキラと輝いて見える。
思わず圧倒されていると、奥からひとりの男性が出てきた。
「よう」
気軽な挨拶で正俊さんと向き合った彼は、正俊さんと同じくらいの年齢に見える。ベージュ系のチェック柄のスーツに、ざっくりとセットされた無造作な髪。正俊さんよりもラフな格好をしているのに、硬質で鋭い雰囲気を持ったひとだ。
「……神楽坂」
正俊さんが彼をそう呼んだ。彼――神楽坂さんは、眼差しの鋭さをそのままに、口の端を持ち上げて笑う。
「顔を合わせるのは久しぶりだな」
正俊さんは神楽坂さんを一瞥すると、「そうだな」と短く応じた。それと同時に、いつもよりも乱雑な手つきで正俊さんが私の肩を抱いた。私ははっと目を見ひらく。
「……行きましょう」
私を促しながら、神楽坂さんとすれ違おうとする。すると、神楽坂さんが鼻先で笑った。
「婚約者を紹介してくれないのか?」
正俊さんの雰囲気が途端に険しくなる。
正俊さんはゆっくりとまばたきをした。神楽坂さんに対抗するように鼻先で笑って、すれ違おうとした彼に向き直る。
「これはうっかりしていた。もちろん、紹介しよう」
絡んだ視線の先で、彼らは互いの出方を窺っている。どちらとも薄い笑みを浮かべているのに、まるで睨み合っているみたい。
「婚約者の広瀬真理菜さんだ。出向先の大学図書館で知り合った」
正俊さんの紹介を受けて、私はおずおずと頭を下げる。
「広瀬真理菜です。……よろしくお願いします」
「神楽坂直人です。よろしくお願いします。結城は、とても素敵な女性と巡り会ったようですね」
神楽坂さんは笑顔で私に会釈をした。にこやかで友好的に見えたけれど、彼のまとう雰囲気全体が何だか冷たい。
ぎゅ、と思わず手を握りしめたところで、奥から軽やかな足音が聞こえた。
「事務次官のご招待で参りました。結城正俊です」
正俊さんが名乗ると女性の返事があって、瀟洒な門がひとりでにひらく。
「行きましょう」
彼に促されて、邸宅の敷地内に入った。白い石畳のアプローチを歩いて、ダークブラウンの木製の扉に辿り着く。
玄関のインターホンも鳴らそうとしたところで、内側から扉がひらいた。
「本日はお嬢様の誕生日パーティーに、ようこそお越しくださいました」
エプロン姿の女性が出迎えてくれる。
「こちらこそ、ご招待ありがとうございます」
正俊さんが会釈で応じ、私も慌ててぺこりと頭を下げる。
まるで、お城みたいな場所だと思った。繊細な光をきらめかすシャンデリアや大理石の床、ロイヤルブルーの玄関マット――内装品のすべてに気品があって、空気さえもキラキラと輝いて見える。
思わず圧倒されていると、奥からひとりの男性が出てきた。
「よう」
気軽な挨拶で正俊さんと向き合った彼は、正俊さんと同じくらいの年齢に見える。ベージュ系のチェック柄のスーツに、ざっくりとセットされた無造作な髪。正俊さんよりもラフな格好をしているのに、硬質で鋭い雰囲気を持ったひとだ。
「……神楽坂」
正俊さんが彼をそう呼んだ。彼――神楽坂さんは、眼差しの鋭さをそのままに、口の端を持ち上げて笑う。
「顔を合わせるのは久しぶりだな」
正俊さんは神楽坂さんを一瞥すると、「そうだな」と短く応じた。それと同時に、いつもよりも乱雑な手つきで正俊さんが私の肩を抱いた。私ははっと目を見ひらく。
「……行きましょう」
私を促しながら、神楽坂さんとすれ違おうとする。すると、神楽坂さんが鼻先で笑った。
「婚約者を紹介してくれないのか?」
正俊さんの雰囲気が途端に険しくなる。
正俊さんはゆっくりとまばたきをした。神楽坂さんに対抗するように鼻先で笑って、すれ違おうとした彼に向き直る。
「これはうっかりしていた。もちろん、紹介しよう」
絡んだ視線の先で、彼らは互いの出方を窺っている。どちらとも薄い笑みを浮かべているのに、まるで睨み合っているみたい。
「婚約者の広瀬真理菜さんだ。出向先の大学図書館で知り合った」
正俊さんの紹介を受けて、私はおずおずと頭を下げる。
「広瀬真理菜です。……よろしくお願いします」
「神楽坂直人です。よろしくお願いします。結城は、とても素敵な女性と巡り会ったようですね」
神楽坂さんは笑顔で私に会釈をした。にこやかで友好的に見えたけれど、彼のまとう雰囲気全体が何だか冷たい。
ぎゅ、と思わず手を握りしめたところで、奥から軽やかな足音が聞こえた。