なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 真っ白なシーツをぎゅっと握りしめる。指先が、かたかたとふるえている。
 裁定を待つ罪人の心地で俯けば、

「顔を上げてください」

 結城さんは、やっぱり穏やかな声で、私にそう告げた。
 その穏やかさに促されるようにして、おそるおそる顔を上げると、結城さんは端的に言った。

「僕は、今日の17時をもって、東都大学図書館の副館長ではありません」

 少しだけ、悪戯っぽい顔で結城さんは続けた。

「出向が終わった今は、ただの、文部科学省の一職員です。東都大学図書館員としての広瀬さんに対して、何の権限も持っていません」

 戸惑う私の視界の端に、リノリウムの床に置かれた結城さんの荷物が映った。ビジネスバッグの横に、紙袋。紙袋の中の、涼やかな色合いの花束は、図書館への出向が終了した結城さんへ、私たちが贈ったものだ。

「だから、そう怯えた顔をしないで」

 結城さんの言葉に、はい、とちいさく頷いた。
 強張っていた指先に、ささやかな温みが戻ってくる。

 カチ、カチ、と時計の針が進む音。静かな響きを、しばらくのあいだ聞いていた。
 静謐な響きのさなかで、結城さんが丁寧に言葉を差し伸べる。
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