なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
――は、と目をひらいたら、無機質な白。
ぬかるみに沈んだように身体が重たい。
首から上だけを少し持ち上げて、周囲を確認しようとした。すると、
「目が覚めましたか。……よかった」
優しげな声が、耳に届いた。
白を見上げる眼差しに影がさしかかって、整った面差しが私を覗き込む。
「結城さん……」
呆然とした心地で、彼の名前を呼んだ。耳に届いた声は、弱々しくてかさかさだった。
長い睫毛に縁取られた眼差しを見つめた途端に、目を覚ます前のことを思い出した。
夕たけのオレンジと、遠ざかってゆく世界。私を見下ろした眼差しと、頬に触れた指先――そして黒に塗りつぶされた意識。
そうだ、帰宅途中に倒れたんだっけ。
だから、私は病院にいるんだ。
清潔で無機質な個室を見回して、状況を理解する。
「すみません……ご迷惑を、お掛けしました」
重たい身体をどうにか動かして、上体を起こそうとした。けれど、ベッド横の椅子に腰掛けた結城さんが、手振りでそれを制す。
「僕へのお気遣いには及びません。休んでいて」
「でも、」
「過労との診断でした。まだ、動かないほうがいい」
その言葉を聞いた途端に、指先が少し強張った。自分の身体に無理が蓄積されていることには、薄々だけど気づいていたから。
私を安心させるような穏やかな笑みで、結城さんが問う。
「仕事中も、いつも顔色が悪かったですよね」
「……そうかもしれません」
結城さんの声は優しいのに、まるで尋問されているような心地になった。
思案顔の結城さんから、眼差しを逸らす。
「広瀬さんには残業をお願いしていなかったはずだけど……確か、副業の申請をされていましたね」
「……はい。業務委託で、テープ起こしの仕事を」
そうでしたね、と穏やかに応じた結城さんは、丁寧な口調で指摘する。
「図書館でフルタイムで働いた上で、テープ起こしの仕事をされているんですよね。副業がお身体に障っているのでは?」
「――すみません!」
重たい身体を無理矢理に起こして、大きく頭を下げる。
「副業は図書館の業務に支障をきたさない範囲で、という決まりになっているのはちゃんとわかっています! でも、副業をしないとどうしてもお金が足りなくて」
自分の顔から血の気が引いていくのがわかる。
副業が原因で過労で倒れて、もしも図書館の業務に支障をきたしたら、明らかな服務規程違反だ。
結城さんの判断によっては――私は、図書館の仕事を失ってしまうかもしれない。