エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
 コーヒーの匂いが、柔らかにたゆたう。「夕食も作ってくれていたのにすみません」と正俊さんは神妙な顔をした。私は、「今夜、一緒に食べましょう」と笑った。

 正俊さんが作ってくれていたオムレツとベーコン。バターロールとマグカップのコーヒー。穏やかに朝食をとったあと、私たちはそれぞれ出勤をした。夜も一緒に夕食をとった。

 平穏な日々が続いた。私たちの関係が、いったい何なのかわからないまま。

 正俊さんは、300万円の奨学金返済を引き受けた。私は、彼の婚約者としてパーティーに参加した。

 互いに債務を全うして、契約は正常に終了した。

 だけど私たちは、偽物の婚約者として過ごしていた期間と同様の生活を続けている。

 偽物の婚約者の役目は終わった。でも、だからといって本物でもない。

 私は、どうしてまだこのマンションで暮らしているのだろうと不意に思う。
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