エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
 広いな――と思った。帰宅して簡単に夕食を済ませて、入浴も済ませたあと。

 リビングのローテーブルで勉強をしながら、室内を見回して広いなと思った。

 タワーマンションだから、広いのは当たり前だ。それに、このマンションでもう2ヶ月近く暮らしているのだから、部屋の広さを意識するなんて今さらだ。

 よし、と気持ちを切り替えて問題集とノートに向かう。今日は、『二語の関係』と『熟語の成り立ち』の過去問だ。言語の問題なら、比較的得意だ。さらさらとシャープペンを走らせる。

 問題は好調に解けた。でも、何となく集中できなかった。だから早めに勉強を切り上げて寝室に下がった。ノートと問題集を三段ボックスの一番上の引き出しに片付けたとき、ふと、同じ引き出しに仕舞っているブラックのリングケースが視界に入った。

 正俊さんから預かっている、プリンセスカットのダイヤモンドの指輪。私たちの契約は終わったのに、指輪をまだ返していない。

 返すタイミングを何となく逃している。次こそ、ちゃんと言い出さなきゃ。

 忘れないようにしようと思いながら、引き出しを押し込む。

 そうしてベッドに横になって、リモコンで部屋の灯りを消して目を瞑った。
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