エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
「あっ……はい! 明後日です」

 思っていた以上に、勢いの良い返事になった。少し恥ずかしくなって目を逸らす。

 正俊さんはふっと笑った。

「それじゃあ、明後日を休みにします。美術館はいかがでしょうか」

「美術館! いいですね」

 絵画や彫刻など、素敵なものを見るのは好きだ。美術品に関する知識が豊かなわけじゃないけれど、中学の教科書で見た印象派の絵画は特に好き。

 そんなことを考えていたから、心を読まれてしまったのかと思った。

「横浜の美術館で開催されている企画展で、印象派の絵画がいくつか展示されているみたいです」

「えっ?」

 と、思わず聞き返す。

 正俊さんは、穏やかな表情で続けた。

「印象派の企画展というわけではないけど、アメリカのウスター美術館所蔵の印象派絵画が数点来日しているそうです」

「へえ……!」

 教科書で見た、柔らかな色彩の素敵な絵画を思い浮かべながら、「ぜひ行きたいです!」と返事をした。水の入ったグラスを持つ指先に、不意に温もりが灯った気がした。

「では、明後日は美術館を含めた横浜巡りで」

「はい。お願いします!」

 話が終わると、正俊さんはバスルームへと向かった。私はグラスの水を飲んで、ふと、自分がとても浮かれていることに気づく。

 ――単純だな。さっきまで、よくわからないまま落ち込んでいたのに。

 笑みの余韻を残す頬に手を当てる。彼の一言一言で感情がこんなに動いてしまう。

 まるで、乱高下の気流みたい。

 もしも――名前のない関係のままその理由に気づいてしまったら、私はどうすればいい?
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