なりそこないのシンデレラ ~エリート官僚と偽りの婚約!?~
 奨学金は、言ってしまえば借金だ。300万円の借金を引き受けます――と言われたとして、「はい、じゃあお願いします」なんてあっさり受け入れられるわけがない。

 困惑する私に、結城さんは微笑んだ。
 私を安心させるような、穏やかな眼差しで。

「この提案は、僕の方にメリットがあるんです」

「結城さんに……?」

 腑に落ちない眼差しで結城さんを見上げれば、はい、と彼は頷いた。

「断りたいけど、断るのがなかなか難しい結婚話が来ていまして」

 結城さんは、ほんの少し眉を下げた。

「先方に、他に結婚を決めた方がいると伝えれば、ご納得いただけるかなと」

 そこまで聞いたところで、結城さんが言いたいことは理解できた。
 つまり、私に『偽物の婚約者』を演じてほしいという話だ。

 だけど、事情を理解しても、それじゃあ――と頷くには、条件があまりにも不平等な気がする。
 ただ『偽物の婚約者』を演じるだけで、300万円の借金を肩代わりしてもらうなんて。

 戸惑う私に、結城さんはまた微笑んだ。

「本来なら、300万じゃ足りないくらいです」

 私との距離をもう一歩詰めて、結城さんは続ける。

「偽りとはいえ、あなたの恋を頂戴するわけですから」

 ほんの微かに、結城さんの香りが届く距離。
 職業柄、おそらく香水じゃない。清潔なシャンプーか、涼やかな柔軟剤の香り。

 思わず、息を止めた私に、結城さんは言った。

「僕を、助けていただけませんか?」

 丁寧で穏やかな――けれど、どこか有無を言わさないような声音で。
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