エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
空っぽになったマグカップをローテーブルに置いた。ことん、と響いた音が合図みたいに会話が途切れてしまった。
正俊さんと共有する沈黙なら、気まずいなんて普段は思わない。
だけど今日は、私が身じろぐときの衣擦れの音がやけに明瞭に聞こえて落ち着かない。
「あ……ご飯。ご飯を、何か作りますね! まだ食べてないですよね?」
そう言って、私はソファから立ち上がろうとした。だけど、彼に手を掴まれて叶わなかった。
「俺も一緒に作ります」
彼の眼差しが、いつもと違った。いつもより少し鋭くて、いつもより影の色合いが濃い。
それに、さっきみたいに熱っぽい。
「……でも、お仕事で疲れてるだろうから」
休んでいてくださいと続けながら、目を逸らした。こんな会話じゃ、ありきたりな夜に戻れないことはわかっていた。
正俊さんの影が揺らめく。そうして、私に差し掛かる。
「嫌だったら、突っぱねてください」
少し掠れた声で、彼が囁く。
私は眼差しをふるわせた。ソファの上、ぎゅっと握りしめる手に力がこもる。
「真理菜さん。……目を閉じて」
もしも彼の言葉に頷くなら――その後に訪れる展開を、私はちゃんと知っている。
緊張と慄き、確かな期待。
私の内側で目まぐるしく行き交っている。
指先が少しふるえたけれど、私はぎゅっと目を閉じた。
呼吸が止まって、世界の音が遠ざかる。
その代わりみたいに、彼の動きに伴う衣擦れの音が鮮やかに聞こえて、そっとくちびるが重なった。
正俊さんと共有する沈黙なら、気まずいなんて普段は思わない。
だけど今日は、私が身じろぐときの衣擦れの音がやけに明瞭に聞こえて落ち着かない。
「あ……ご飯。ご飯を、何か作りますね! まだ食べてないですよね?」
そう言って、私はソファから立ち上がろうとした。だけど、彼に手を掴まれて叶わなかった。
「俺も一緒に作ります」
彼の眼差しが、いつもと違った。いつもより少し鋭くて、いつもより影の色合いが濃い。
それに、さっきみたいに熱っぽい。
「……でも、お仕事で疲れてるだろうから」
休んでいてくださいと続けながら、目を逸らした。こんな会話じゃ、ありきたりな夜に戻れないことはわかっていた。
正俊さんの影が揺らめく。そうして、私に差し掛かる。
「嫌だったら、突っぱねてください」
少し掠れた声で、彼が囁く。
私は眼差しをふるわせた。ソファの上、ぎゅっと握りしめる手に力がこもる。
「真理菜さん。……目を閉じて」
もしも彼の言葉に頷くなら――その後に訪れる展開を、私はちゃんと知っている。
緊張と慄き、確かな期待。
私の内側で目まぐるしく行き交っている。
指先が少しふるえたけれど、私はぎゅっと目を閉じた。
呼吸が止まって、世界の音が遠ざかる。
その代わりみたいに、彼の動きに伴う衣擦れの音が鮮やかに聞こえて、そっとくちびるが重なった。