エリート官僚と偽りの婚約 ~魔法が解けるまで、あなたと仮初の恋をします~
 穏やかな日々がしばらく続いた。その日も、彼と分け合う温度の中で目を覚ました。

 朝の白い眩さの中で、まだ意識が曖昧だった。ゆっくりと上体を起こして目を擦ったら、柔らかな笑みの音が聞こえた。

「おはよう」

 ぱちり、と目をまたたく。意識が少し鮮やかになって、正俊さんの微笑みが瞳に映る。

「おはようございます」

 少し、舌足らずな声で挨拶を返した。まだ、微睡みが意識に残っている。

「そろそろ起こそうと思って」

 私と視線を合わせた彼は、もうシャツとスラックスに着替えている。ネクタイとジャケットは、まだ。

「ありがとうございます……」

「まだ眠い?」

「眠いです……」

 ふわふわとした気分で答えたら、

「昨日、遅くまで勉強してたからね」

 正俊さんが優しい表情で言って、私の髪を撫でた。

 正俊さんのほうが私よりももっと遅くまで起きていたのに、どうしてこんなに爽やかなんだろう。

 ふわふわのまま、つま先を床に下ろす。もうひとつ、まばたきをして意識をもっとはっきりさせようとする。

 ふっ、と笑った正俊さんが私の頬へ手を伸ばした。そのまま彼の影が近づいて、キス、されたから目を見ひらく。

「目が覚めましたか、お姫様?」

「覚めました……っ」

 一気に熱くなった頬を押さえてうろたえる。朝から頭を沸騰させる私を見つめて、「可愛かったから、つい」と正俊さんは悪戯に笑った。





 幸せにならなくてもいいと思った。
 彼に恋を打ち明けることを決意したとき、幸せになりたいんじゃなくて、ただあなたの隣に居たかったのだと、それだけ伝えたいと思っていた。

 でも、思いがけず恋が叶って、夢みたいな幸せに浸っていた。
 まるで、おとぎ話の結末みたいに。

 だけど私の人生がおとぎ話なら、私はかつて、なりそこないのシンデレラだった。

 ピリオドの先へ、自分で歩いたつもりだった。自分で幸せを記したつもりだった。
 だけど私に定められた運命が、否応なく私に忍び寄る。
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