社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く

終電後の出会い


 正直、自分の人生は可もなく不可もなくと言ったところだと思う。

 小中高と平凡に進み、大学で教師を目指すも、自分には向いていないと察して採用試験を辞退。そんな時期から就活が間に合う間もなく、無事にブラック企業に就職した。

 そして、いつの間にか2年が経っていた。

 (そう思うと今は悪い方に傾いてるのかな)

 他人事のような感想を持ちながらそっと息を吐く。現に今日も終電を逃してしまったため、歩いて家まで向かっていた。タクシーを使うお金なんてない。

 (どうせ始発に乗って出社しないといけないなら泊まってもいいけど…)

 会社に泊まったら泊まったで、上司に怒られる。どうしろっていうんだか。

 「……どうせならこの辺に引っ越そうかな。このマンションとか、」

 そう言って何気なく近くのマンションを見上げた時だった。


 煙草を吸いながらこちらを見下ろす、1人の男性と目が合った。

 月明かりに照らされた顔には何かがベッタリとついているし、煙草を持っている手も何かの液体で汚れているのが見てとれた。

 しかし当の本人は気にしていないようで、ベランダの柵に肘をついてこちらを見下ろしていた。
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