私なんかが神様のお嫁さんになりました

神社の境内には白い布が引き詰められており、中央には小さなお膳も用意されていた。
杏は父親に手を引かれてその中央に連れて行かれる。
そして真っ白な布で作られた座布団へ座るよう言われた。

杏は静かに歩き用意された座布団の場所に向かうと着物の裾を綺麗に揃えてゆっくりとその場に座った。

少しの間、境内は不思議なほど静かになる。
鳥の羽ばたく音、風の通り抜ける音、虫たちの微かな鳴き声が聞こえるだけだ。

すると村人が周りで見守る中、いきなり神社の中から強い光が放たれて入り口が静かに開かれたのだった。

村人達は驚きで大きなどよめきが起こる。

そしてそこに現れたのは眩いばかりの光を纏った美しい男性の姿。
その男性の髪はシルバーに輝き、瞳は深い赤だ。
現実の物とは思えぬ美しい姿だったのだ。

その男性はゆっくりと杏に近づき前に立った。
誰もがその神々しさに人間では無く神様だと確信した。

「お前が我の嫁だな。」

すると杏はフルフルと震えながら小さな声を出した。

「いいえ…私は生贄です。どうぞ私を食べてください。」

その言葉を聞いて一瞬驚いたような表情をした神様だが、すぐに杏へ微笑を向けた。

「我は人間を食うたりせんぞ。そなたのことは前から知っておる。…確か名前は杏だったな。いつも神社を綺麗にしてくれて祈りの歌も捧げてくれたであろう。我はそなたを気に入っておる。杏よ、そなたを嫁に娶ることにする。」

神様は杏のすぐ目の前に手を差し伸べて笑顔を見せた。
杏は恐るおそるその手に自分の手を乗せた。

「さぁ、我が嫁よ参るとしよう。」

神様が杏の手を引いて歩き出そうとした時、父親は大きな声をあげたのだった。

「神様、その者は生贄でございます。どうぞ村をお救いください。」

神様は父親に向かって鋭い視線を送った。

「おい、お前!頭が高いぞ。我に命令する気か?」

さらに父親が何か言おうとした時、雷のような光を神様は父親に向けて発した。
父親はそのまま後ろに倒れるほどの衝撃だ。

「我はお前たちが杏にしてきたことをすべて知っておる。村を助ける気は無い。」

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