私なんかが神様のお嫁さんになりました

大きなお風呂の湯船につかった杏。
その湯からはほわほわと温かい湯気が上がっていた。
杏は湯気を見ながら戸惑いながらも口角が自然に上がっているのを感じた。
湯気の上がるお風呂を見るのも久しぶりなのだ。

「私…温かいお湯につかるのは久しぶりなんです。いつもは風呂掃除の時に水で体を拭いていました。」

お風呂の中で手伝いをしてくれる女性たちが一瞬なにも言わなくなる。
少しして泣いているような声が聞こえて来た。

「杏様…なんてお可哀そうに…水で体を拭いていたなんて…」

女性たちは杏の体や髪を洗うのを手伝ってくれると言う

「あの…私…自分で出来ますので…皆様にしていただくなんて恐れ多いことできません。」

すると女性は杏に微笑んだ。

「杏様は白龍神様のお嫁様です。私達に任せてゆっくりしていてください。」

杏の言葉は聞き入れられず、女性たちは杏の体や髪を優しく洗い始めた。
初めてのことに緊張する杏。

「杏様、堂々としていれば良いのですよ。」

杏がお風呂から上がると、女性たちは手際よく髪を乾かして綺麗な着物を着せてくれたのだった。
小さな巾着のようなところから温かい風が出てくる。
まるでドライヤーのようだがこの時代にまだドライヤーはない。
杏が驚いて女性達に質問した。

「どうして温かい風が巾着から出るのですか?」

「これは風を出すあやかしです。」

女性が巾着をポンポンと叩くと、巾着に小さな顔が現れた。
まるで子猫のような可愛い顔だ。

巾着が声を出す。

「私はあやかしの風(ふう)です。」

杏は笑顔で風を見た。

「なんて可愛らしいのでしょう。風様よろしくお願いいたします。」

髪を乾かし綺麗に結い上げると、今度は着物の着付けだ。
杏の部屋に色とりどりの着物が運び込まれた。
爽やかな空のような色の着物や桜の花吹雪をイメージさせる着物。
杏はこんなにも美しい着物を見たことが無いくらいだった。

「こんなに高そうな着物を私には勿体ないです。」

「これは白龍神様が用意しておいたものなのですよ。一週間くらい前に女性用の着物をいくつか用意するよう仰られて…」

一週間前といえば、杏が神様に生贄の報告をした頃だ。
やはりあの時の光は神様が聞いてくださった光だったようだ。

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