忘れたはずの恋心に、もう一度だけ火が灯る ~元カレとの答え合わせは、終電後の豪雨の中で~
「由衣」
名前を呼ばれて、ハッとした。顔を上げると、そこには心配そうな表情の圭吾がいた。
「やっと気づいた」
「あれ、いつの間に、」
「何回も声はかけたって。でも無反応だったし、近づいても反応なかったから…どうした、やっぱり寒かったか?」
「あ、いや、そういう訳じゃないの!心配かけてごめん」
訝しげに見つめられるが必死に首を振る。しばらくすると諦めたのか、圭吾は手に持っていた服を差し出した。
「これ。着れると思うから使って。ちゃんと新品だから」
「いいの?」
「多少大きいだろうけど、着れない程じゃないと思う。嫌かもしれないけど、我慢してくれると嬉しい」
「我慢って…むしろありがとう。新品なのにごめんね」
素直に受け取ると、圭吾は小さく頷いた。そのまま浴室に案内される。脱衣所で大体の説明を受けると、ちょうどお風呂が沸いたことを知らせる音声が流れた。
「ちょうどいいな。先に入ってくれ」
「圭吾だって濡れてるじゃん。家主なんだから先に入ってよ」
「俺は後でいい。出たら、突き当たり右の部屋をノックして教えて。その部屋にいるから」
「あっ、ちょっと!」
私の静止の声も聞かずに部屋を出て行ってしまった。結局また取り残されてしまい、思わず顔を顰めてしまう。
(…やっぱり不快だったのかな)
服を脱いで、浴室に入る。全身を洗ってから湯舟に浸かれば、思考も少し冷静になる。
圭吾のことをどう思っているのかについては、随分前から考えるのをやめた。きっと自覚してしまえば最後、次の恋に進めなくなってしまう。
(『次の恋』なんて思ってる時点で、すでに答えは出てるのに)
圭吾のことは好きだ。
でも、友愛と恋愛の違いを証明できない。境界線の引き方が分からない。
恋人らしいことをしているだけの親友。取ってつけたような関係を、圭吾はどう思っていたのだろうか。
それに、私から別れを告げたのだ。復縁を切り出す勇気なんて持ち合わせていない。
(あー…変なメンタル。お酒のせいかな)
思い返せば、今日は結構飲んだ。そこそこのハイペースに、度数が高いお酒も勢いよく煽った覚えがある。
(のぼせる前に出よ)
ぐちゃぐちゃの思考のまま、私は浴室を出た。