忘れたはずの恋心に、もう一度だけ火が灯る ~元カレとの答え合わせは、終電後の豪雨の中で~
もう一度だけ
コンコンコン
「圭吾~。お風呂、お先にありがとう」
「ああ。服はどうだ?」
「多少大きいけど、問題ないよ」
「なら良かった。ドライヤは洗面台の横にあるから」
「あ、うん。借りるね」
「んじゃ、俺ももう少ししたら入るわ」
「え、今すぐ入らないの?濡れてたよね?」
「あー… やることあるから。寝る時はこの部屋の向かいにある部屋のベッド使って」
「圭吾は?」
「俺はこの部屋で寝るから気にするな」
「そう。……あのさ、」
目の前の扉を見つめたまま、静かに、それでも声を張る。
「どうして部屋から出てこないの?」
これだけ長く話していたら、途中で部屋から出てきてもいいはずだ。
そう思って会話を長引かせていたのに、声が近くなる気配もない。何なら足音も聞こえない始末。
ほんの少しの間の後、変に明るい声が扉越しに聞こえた。
「どうしてって…やることがあるからだけど」
「濡れたままだと寒くない?」
「一旦着替えたから大丈夫。それより、髪が濡れたままだろ?ドライヤー使わないと引くぞ」
明らかに話題をすり替えられた。しかし、お酒が本格的に回り出した頭は、意外にも冷静だった。
「そうだね。じゃあドライヤー借りるね。圭吾も風邪ひく前にお風呂に入ってね」
「ああ」
潔く引く。でも、諦めたわけではない。
ドライヤーを借りて、髪を乾かす。ある程度の身支度を整え、濡れてしまったであろうリビングを軽く拭いた。
おじゃましている自分にできることは全てした。