忘れたはずの恋心に、もう一度だけ火が灯る ~元カレとの答え合わせは、終電後の豪雨の中で~

 「……私だって緊張してたんだけど」
 「へ?」
 「…圭吾と会うこと。ここ最近は、今日のことばっかり考えてた」

 お酒の力なのか、言う予定のなかった言葉まで零れ落ちる。急に静かになった圭吾に違和感を覚えてチラッと見ると、彼は何とも言えない顔で私のことを見つめていた。

 「………何よ」
 「いや~…… 何でもない」
 「何か思ったんでしょ」
 「気にすんなって。人の思考まで深追いしてくんな」

 アルコールが回って来たのか、赤い顔で圭吾は笑う。明らかに何かを誤魔化された気はするが、喧嘩をするために来たんじゃないと思いとどまった。

 「しょうがないから見逃してあげる」
 「おっ、今日は撤退が早いな」
 「折角こうやって顔合わせたんだから、変な追求よりも楽しい話をしたいでしょ」

 そう言って追加でハイボールを頼むと、それもそうだな、と返された。

 賑やかな居酒屋の中、私たちは何度目かの笑い声を響かせた。
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