忘れたはずの恋心に、もう一度だけ火が灯る ~元カレとの答え合わせは、終電後の豪雨の中で~
「ありがと、圭吾。でもこれ以上探しても見つからないだろうし、適当にカラオケかネカフェで電車が動くまで待つよ」
「多分どこも満室だろ」
「大丈夫だって。何とかする」
正直アテはないが、いつまでも居酒屋の前にはいられない。それに、いつまでも圭吾を付き合わせるわけにはいかない。スマホを閉じて、鞄を持ち直した。
「じゃあまたね!」
あくまでも元気に振る舞う。未だに心配そうな顔をしている圭吾に背を向け、覚悟を決めて屋根の下から出ようとした時だった。
グイっと腕を引かれた。
予想外の感覚に慌てて振り返ると、圭吾が気まずそうに視線を下げていた。何かあったのだろうか、と首を傾げていると、おずおずと口が開かれる。
「あ、のさ。由衣さえ良ければなんだけど、俺ん家くる?」
「え?」
「さっきも言ったけど引っ越したんだ。ここから歩いて10分。近くのコンビニで傘買えば、そんなに濡れないと思う」
思わぬ提案に驚いてしまう。たしかに言っていることの筋は通っているし、私としても有り難い。でも、
「圭吾は嫌じゃない…?」
「うん」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
私がそう返事をすると、腕を握る圭吾の手にほんの少し力が入った。