十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
第十八章 孤独な夜
「……どうして、こんなに苦しいの」
ついさっきまでのやり取りが、頭の中で何度も繰り返される。
避けたいわけじゃない。
本当は、誰よりも近くにいたい。
けれど、それを口にした瞬間、きっと壊れてしまう。
そんな恐怖が、喉を塞いでしまう。
夜。
部屋の灯りを落とし、ベッドの上で膝を抱えた。
静まり返った部屋に、自分の心臓の音だけが響く。
外では、雨がまた降り始めていた。
十年前のあの日と同じ雨音。
胸の奥がきゅっと痛む。
「……蓮」
名前を呼んだ瞬間、涙がこぼれた。
――高校時代。
放課後の図書室。
誰もいない静かな空間で、彼と二人きりになったことがあった。
「いつも勉強、頑張ってるよな」
不器用に笑った彼の声を、今も鮮明に覚えている。
そのとき、不意に触れた指先。
近づいた距離。
そして――。
頬に触れる、ぎこちない唇の温もり。
それが、私たちの最初で最後のキスだった。
まだ恋の意味も知らないような年齢で、ただ必死に想いをぶつけ合った。
その一瞬が、私の初恋のすべてだった。
けれど、その後すぐに別れは訪れた。
「もう会えない」――そう告げた彼の言葉が、十年間も私を縛り続けてきた。
枕に顔を押し付け、声を殺して泣いた。
「どうしてあのとき、理由を聞けなかったんだろう」
「どうして今も、答えをもらえないんだろう」
彼を憎みたかったのに、思い出すのは温もりばかり。
たった一度のキスが、今も胸を焦がし続けている。
気づけば夜は更け、窓の外はしとしとと雨に濡れていた。
眠れぬまま迎える夜明け。
鏡に映った自分の瞳は、また赤く腫れていた。
――孤独な夜は、いつだって彼の記憶を呼び戻す。
そして、忘れられない想いをさらに強くする。