十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
第二十三章 許されない過去
「……俺には資格がない」
その言葉の意味を、どうしても知りたかった。
けれど彼は、答えを与えぬまま背を向けてしまった。
――十年前。
突然別れを告げられ、理由もわからず取り残されたあの日。
その影が、今なお私を縛っている。
そして彼自身もまた、その影に囚われているのだと気づいてしまった。
数日後。
資料の整理で残業していた私は、偶然、蓮の声を耳にした。
会議室の扉の向こうから聞こえる、低く掠れた声。
「……俺のせいだ」
その一言に、心臓が跳ねた。
思わず足を止め、ドアの隙間から中を覗く。
そこにいたのは、蓮と本部の上層部らしき人物だった。
「十年前の件は水に流したはずだ」
年配の男の声。
「だが、もし再び同じことが起これば――」
「わかっています」
蓮は低く答える。
「だからこそ、俺は……彼女を近づけてはいけない」
胸が締めつけられる。
――彼女。
それが私を指していることは、言われなくてもわかった。
会議室の扉が閉まったあと、私は廊下の影で立ち尽くしていた。
「十年前の件……?」
その言葉が耳から離れない。
彼は、自分を責めている。
まるで、私を巻き込んだこと自体が罪であるかのように。
その夜、意を決して彼に問いかけた。
「部長……十年前、何があったんですか」
彼は驚いたように目を見開き、すぐに表情を固くした。
「……聞くな」
冷たい声。けれど、震えていた。
「聞かなきゃ前に進めません。私たちは、ずっと過去に縛られたままです」
必死に言葉を重ねる。
沈黙のあと、彼は深く目を伏せた。
「……俺は、君を守ることができなかった」
絞り出すような声。
「婚約者がいたことも、君に伝えられなかった。
君が陰でどれだけ傷つけられていたか知りながら……俺は何もできなかった」
「部長……」
胸が痛む。
「俺は、君の初恋を……自分の弱さで壊したんだ。
そんな俺に、再び君を愛する資格なんてあるはずがない」
その言葉に、涙が零れた。
十年前、理由もなく捨てられたと思っていた。
けれど本当は――。
彼は、自分の弱さを許せず、私を遠ざけることでしか守れなかったのだ。
「……私は、まだあの日のままなんです」
震える声で告げる。
「あなたが背を向けた理由を知らないまま、ずっと立ち止まっていた」
蓮は痛みに耐えるように目を伏せた。
――許されない過去。
彼はそれを抱え続け、私を拒絶することでしか贖えないと思っている。
けれど、その拒絶こそが、私を最も深く傷つけていた。
「もう、過去に縛られるのはやめましょう」
小さく囁いた言葉が、彼に届いたかどうかはわからない。
ただ、彼の瞳が揺れたのを、私は確かに見た。
その言葉の意味を、どうしても知りたかった。
けれど彼は、答えを与えぬまま背を向けてしまった。
――十年前。
突然別れを告げられ、理由もわからず取り残されたあの日。
その影が、今なお私を縛っている。
そして彼自身もまた、その影に囚われているのだと気づいてしまった。
数日後。
資料の整理で残業していた私は、偶然、蓮の声を耳にした。
会議室の扉の向こうから聞こえる、低く掠れた声。
「……俺のせいだ」
その一言に、心臓が跳ねた。
思わず足を止め、ドアの隙間から中を覗く。
そこにいたのは、蓮と本部の上層部らしき人物だった。
「十年前の件は水に流したはずだ」
年配の男の声。
「だが、もし再び同じことが起これば――」
「わかっています」
蓮は低く答える。
「だからこそ、俺は……彼女を近づけてはいけない」
胸が締めつけられる。
――彼女。
それが私を指していることは、言われなくてもわかった。
会議室の扉が閉まったあと、私は廊下の影で立ち尽くしていた。
「十年前の件……?」
その言葉が耳から離れない。
彼は、自分を責めている。
まるで、私を巻き込んだこと自体が罪であるかのように。
その夜、意を決して彼に問いかけた。
「部長……十年前、何があったんですか」
彼は驚いたように目を見開き、すぐに表情を固くした。
「……聞くな」
冷たい声。けれど、震えていた。
「聞かなきゃ前に進めません。私たちは、ずっと過去に縛られたままです」
必死に言葉を重ねる。
沈黙のあと、彼は深く目を伏せた。
「……俺は、君を守ることができなかった」
絞り出すような声。
「婚約者がいたことも、君に伝えられなかった。
君が陰でどれだけ傷つけられていたか知りながら……俺は何もできなかった」
「部長……」
胸が痛む。
「俺は、君の初恋を……自分の弱さで壊したんだ。
そんな俺に、再び君を愛する資格なんてあるはずがない」
その言葉に、涙が零れた。
十年前、理由もなく捨てられたと思っていた。
けれど本当は――。
彼は、自分の弱さを許せず、私を遠ざけることでしか守れなかったのだ。
「……私は、まだあの日のままなんです」
震える声で告げる。
「あなたが背を向けた理由を知らないまま、ずっと立ち止まっていた」
蓮は痛みに耐えるように目を伏せた。
――許されない過去。
彼はそれを抱え続け、私を拒絶することでしか贖えないと思っている。
けれど、その拒絶こそが、私を最も深く傷つけていた。
「もう、過去に縛られるのはやめましょう」
小さく囁いた言葉が、彼に届いたかどうかはわからない。
ただ、彼の瞳が揺れたのを、私は確かに見た。