十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
第三十二章 二人の距離を詰める食事の誘い
仕事終わりのオフィス。
資料を片付けていると、隣に立った佐伯が静かに声をかけてきた。
「西園寺さん。……このあと、少し付き合ってくれない?」
顔を上げると、柔らかい笑みと真剣な眼差し。
心臓が跳ねた。
誘われるままに訪れたのは、小さなイタリアンレストランだった。
キャンドルの灯りがテーブルを照らし、落ち着いた空気が広がっている。
「たまには、こういう時間も必要だろ」
佐伯は軽やかにワインを注ぎながら言う。
「噂や周りの視線ばかり気にしていたら、君が壊れてしまう」
その言葉に胸が熱くなる。
「……ありがとうございます。佐伯さんがいてくれて、本当に救われてます」
正直な気持ちを口にすると、彼は嬉しそうに目を細めた。
「もっと、頼ってほしい。俺は本気だから」
テーブル越しに触れた指先が温かく、心が揺れた。
あの夜、寸前で止まった想いが、再び近づいてくる気配。
そのとき。
ふと視線を感じて入口の方を見ると――蓮が立っていた。
驚いたようにこちらを見つめる彼の瞳に、嫉妬の影が滲む。
すぐに視線を逸らし、踵を返す背中。
「……部長」
思わず名前を呼んでしまった。
けれど彼は振り返らなかった。
「西園寺さん……?」
佐伯の声に、慌てて笑顔を作った。
「ごめんなさい。ちょっと……知り合いを見かけた気がして」
そう言いながらも、胸は締めつけられる。
――どうして。
私の心は、こんなにも揺れてしまうの。
食事のあと、佐伯が車で送ってくれた。
「今日は楽しかった。君が笑ってくれて、俺も嬉しい」
その真っ直ぐな言葉に、涙が込み上げる。
「……ありがとう、佐伯さん」
夜風に揺れる街灯の下で小さく呟いた。
けれど、心の奥には、さっき見た蓮の表情が焼きついて離れなかった。