十年越しの初恋は、永遠の誓いへ

第三十五章 佐伯の告白

 蓮の嫉妬を滲ませた言葉が、まだ胸の奥でくすぶっていた。
 「佐伯といるとき、お前はよく笑うな」
 その声を思い出すたび、心臓が痛む。

 ――私の笑顔は、蓮には届かないのだろうか。



 翌日のオフィス。
 資料室で段ボールを持ち上げようとしたとき、背後から声がかかった。

 「危ない」
 強い腕が私を支える。
 振り返ると、佐伯が真剣な眼差しで見つめていた。

 「無理して一人で抱え込むなよ。君は、もっと頼っていいんだ」



 その声に、胸が揺れる。
 頼れる優しさ。
 けれど、その温もりにすがってはいけないとわかっているのに――。

 「佐伯さん……私……」
 何かを言いかけたとき、彼が静かに口を開いた。

 「俺は、君が誰を想ってるのか知ってる」
 瞳はまっすぐで、嘘ひとつなかった。



 「藤堂部長なんだろ」
 その名を口にされた瞬間、体が強張った。

 「……でも、それでもいい。
 君が誰を好きでも、俺は君を諦めない」

 驚きに言葉を失う私に、彼はさらに続けた。

 「俺は、君が泣いているのを見たくない。
 笑っていてほしい。それが俺の願いだ」



 心臓が強く鳴る。
 彼の言葉は、優しいだけじゃない。
 確かな熱を帯びていた。

 「佐伯さん……」
 震える声が零れる。

 「答えはいらない。
 でも、覚えていてほしい。俺は本気で君を愛してる」

 その告白が胸に深く突き刺さった。



 資料室を出るとき、膝が震えていた。
 ――佐伯の告白。
 その言葉に揺れながらも、心の奥に浮かぶのは蓮の不器用な瞳ばかり。

 私の心は、ますます迷宮に迷い込んでいた。
< 36 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop