十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
第三十六章 蓮の冷たい拒絶
佐伯の告白が、胸の奥で響き続けていた。
「俺は本気で君を愛してる」
優しい声と熱い眼差し。
忘れられるはずがなかった。
けれど、私が求めるのは――やっぱり蓮だった。
翌日のオフィス。
資料を抱えて廊下を歩いていると、蓮と鉢合わせした。
「……おはようございます」
勇気を出して声をかける。
しかし彼は、一瞥しただけで答えず、通り過ぎようとした。
「部長……!」
思わず呼び止めると、彼はゆっくりと振り返る。
「……佐伯と親しいようだな」
心臓が跳ねた。
「それは……」
言葉を探す私を、彼の冷たい視線が射抜く。
「俺の部下としての立場を忘れるな。
噂一つで部署の信頼は揺らぐんだ。……君にはその自覚があるのか?」
突き放すような言葉。
けれどその声は、かすかに揺れていた。
「私は……部長に誤解されたくないんです」
必死に言葉を重ねる。
「佐伯さんは優しいだけで、私を――」
「言い訳はいらない」
蓮は短く遮った。
「俺は君の私生活に興味はない」
冷たく言い放つ表情に、痛みが走った。
――本当に、そうなの?
「興味がないなら、どうして……」
思わず声が震える。
「どうして、そんなに突き放すんですか」
蓮の瞳がわずかに揺れた。
だが次の瞬間、彼は背を向けた。
「……俺には、君をどうこうする資格がない」
その言葉だけを残し、足早に去っていく。
冷たい拒絶。
それは、心を守るための壁なのだとわかっていても――やはり胸は張り裂けそうだった。
「どうして……」
呟いた声は、虚しく廊下に消えていった。