十年越しの初恋は、永遠の誓いへ

第三十七章 それでも寄り添う佐伯


 「……俺には、君をどうこうする資格がない」
 蓮の背中が遠ざかるのを見送ったあと、私はその場に立ち尽くしていた。
 冷たい言葉の余韻が胸を抉り、涙が溢れそうになる。

 ――どうして、いつも突き放すの。
 どうして、信じさせてくれないの。



 夜。
 資料を抱えてデスクに戻ると、佐伯が待っていた。
 「西園寺さん」
 その声を聞いた瞬間、張りつめていた心が緩んでしまった。

 「顔色……ひどいな」
 彼は眉を寄せ、机の上に温かい缶コーヒーを置いた。
 「ほら、甘いの。少し飲めば楽になるから」

 そのさりげない優しさに、また涙が滲む。



 「……大丈夫です」
 震える声でそう言うと、彼は首を横に振った。

 「大丈夫じゃないだろ」
 柔らかな声が心に沁みる。
 「無理に笑わなくていい。俺は、君の弱さも全部受け止めたい」

 その言葉に胸が大きく揺れた。
 優しさに包まれるほど、心は痛みを増す。



 仕事を終え、駅までの帰り道。
 雨上がりの歩道を歩いていると、佐伯が傘を差し出してくれた。
 「濡れると風邪ひくよ」
 私の肩を守るように差し伸べられた傘の中。

 「……どうして、そんなに優しいんですか」
 気づけば声が震えていた。

 佐伯は少し黙ってから、静かに答えた。
 「好きだから」



 その一言に、足が止まった。
 「俺は、君がどんなに藤堂部長を想っていても、君の味方でいる」
 真剣な眼差し。
 「泣きたいときは泣いていい。逃げたいときは逃げていい。……でも、俺の前では笑ってほしい」

 胸が熱くなり、涙が頬を伝った。



 彼はその涙を拭おうともせず、ただ静かに見つめていた。
 「無理に答えはいらないよ」
 そう言って差し出された温もりが、心を強く揺さぶる。

 ――それでも寄り添ってくれる人。
 その存在の大きさに気づきながらも、私はやはり蓮を想ってしまう自分から逃れられなかった。
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