十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
第三十九章 主人公の孤立が決定的に
元婚約者の挑発の言葉が胸に突き刺さったまま、私は翌日も出社した。
けれど、オフィスに一歩足を踏み入れた瞬間、空気がいつも以上に冷ややかだと感じた。
「聞いた? また見られたんだって」
「西園寺さんと佐伯くん、一緒に出てくるところ」
「でも蓮部長と元婚約者も、先日レストランにいたらしいし……」
囁き声が絶え間なく響き、視線が私に突き刺さる。
椅子に腰を下ろすと、机の上に置いておいた資料が、いつの間にか隣の机へ押しやられていた。
「……どうして」
小さく呟いた声は、自分にしか届かない。
昼休み。
食堂で席を探しても、誰も隣に座ろうとしなかった。
トレーを抱えたまま立ち尽くす私の前に、同僚が無造作に言った。
「そこ、もう使ってるから」
目の前の席は空いていた。
けれど私は何も言えず、静かに踵を返した。
廊下で壁にもたれかかっていると、佐伯が駆け寄ってきた。
「西園寺さん、大丈夫か?」
心配そうな瞳が私を見つめる。
「……平気です」
笑顔を作ろうとしたけれど、声は震えていた。
「平気な顔しなくていい」
彼はそっとハンカチを差し出す。
「俺は君の隣にいる。たとえ誰が離れていっても」
その優しさに救われそうになり、胸が締めつけられた。
しかし、その場から少し離れた場所に蓮の姿があった。
同僚たちの視線を遮るように立っていたのに、彼は一歩もこちらに近づいてこない。
――なぜ、何も言ってくれないの。
私を守れるのは、あなたしかいないのに。
その想いは、喉元で絡まり、言葉にならなかった。
噂と影に追い詰められた私は、ついにオフィスの中で完全に孤立した。
信じたいのに信じられず、愛したいのに愛せない。
孤独の淵で揺れる心は、どこへ向かえばいいのかわからなかった。