十年越しの初恋は、永遠の誓いへ

第四十八章 涙の選択


 「……私は、私の気持ちを、ちゃんと選びます」
 震える声でそう告げた瞬間、二人の視線が一斉に私に注がれた。

 佐伯の瞳は、揺るぎない優しさと誠実さで満ちていた。
 蓮の瞳は、罪と後悔と、それでも消せない愛で滲んでいた。

 どちらの想いも、私を包み込んでいた。



 会議室を出たあと、私は屋上へ駆け上がった。
 夜風が頬を打ち、涙を散らす。

 十年前からずっと胸に残り続けた人。
 そして、今そばで支えてくれる人。

 「どうして……どうして二人とも、こんなに優しいの」
 嗚咽混じりの声が夜空に溶けた。



 足音が響く。
 振り向くと、蓮と佐伯、二人が並んで立っていた。

 「紗良」
 蓮の声は切なく震えている。
 「十年前、俺はお前を守れなかった。それでも、もう一度やり直したい」

 「西園寺さん」
 佐伯の声は温かい。
 「俺は、十年前のあなたを知らない。でも、今のあなたを支えたい。未来を一緒に作りたい」



 二人の声が胸を激しく揺さぶる。
 溢れる涙を拭うことさえできなかった。

 「……私……」
 喉が詰まり、言葉が出ない。

 けれど、逃げ続けることはもうできない。
 十年前の痛みも、今の迷いも、すべて抱えた上で――私は、選ばなければならない。



 「私が選ぶのは……」
 声が震え、涙が頬を伝う。

 その言葉に、二人の瞳がまっすぐ私を見つめた。
 未来を変える一言が、唇に乗ろうとしていた。



 ――涙の選択。
 その瞬間、私の心はようやく決断へと動きはじめていた。
< 49 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop