十年越しの初恋は、永遠の誓いへ

第四十九章 主人公の決意

 夜風に揺れる屋上で、私は二人の視線に射抜かれていた。
 佐伯の瞳には、変わらぬ優しさと未来への誠実さが映っている。
 蓮の瞳には、十年分の後悔と、今もなお消えぬ愛が滲んでいた。

 どちらも偽りではない。
 どちらも本物の想いだった。



 「……私が選ぶのは」
 震える唇から言葉が零れる。
 「十年前も、今も……ずっと忘れられなかった人」

 視界が涙でにじむ。
 けれど、その向こうに映る姿ははっきりしていた。

 「私は……藤堂部長、あなたが好きです」



 佐伯の表情が静かに揺れた。
 一瞬だけ痛みが走ったように見えたけれど、すぐに柔らかな微笑みに変わる。

 「……そうか」
 優しい声が夜に溶けた。
 「やっぱり、そうだと思ってたよ」

 「佐伯さん……」
 胸が締めつけられる。



 「泣くな」
 彼は軽く笑って私の頭を撫でた。
 「俺の気持ちは消えない。でも、君が幸せでいるなら、それでいい」

 その温もりに、涙が止まらなかった。
 「……ありがとう。ごめんなさい」



 その横で、蓮は黙ったまま拳を握りしめていた。
 そして、低く震える声を落とす。

 「……本当に、俺でいいのか」
 「いいんです」
 涙で濡れた顔を上げ、真っ直ぐに彼を見た。
 「あなたじゃなきゃ、駄目なんです」

 蓮の瞳に光が宿った。
 その表情を見た瞬間、心が解き放たれるようだった。



 ――主人公の決意。
 十年前の痛みも、すれ違いも、噂も誤解も。
 すべてを越えて、私は自分の心を選んだ。
< 50 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop