十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
 数日後。
 出社すると、彼女と藤堂部長が並んで資料を確認していた。
 二人の距離はわずかだったが、その空気ははっきりと違っていた。

 彼女の横顔が穏やかで、迷いがなくなっている。
 ――もう、届かないんだな。
 そう痛感した。



 夜、バーのカウンターに一人座り、グラスを傾ける。
 琥珀色の液体に揺れる光を眺めながら、ふと呟く。

 「どうしてあんなにも、君を好きになってしまったんだろうな」

 静かな店内に、自嘲気味の声が溶けていく。
 返事をしてくれる人はいない。



 彼女が泣いたとき、笑えなくなったとき、必ず駆けつけて支えたかった。
 その気持ちは嘘じゃない。
 でも、彼女の心を掴んでいたのは、十年前からずっと藤堂部長だった。

 俺は過去に勝てなかった。
 けれど――未来まで諦めるつもりはなかった。



 ある日、同僚に誘われて出席した食事会で、明るく笑う女性と出会った。
 彼女は少し不器用で、でも真っ直ぐな瞳をしていた。
 「佐伯さんって、誰かをすごく大事にしてきた人ですよね」
 不意にそう言われ、胸が揺れた。

 ――わかる人には、わかるのかもしれない。



 帰り道、夜空を見上げる。
 遠くに輝く星が、彼女の笑顔を思い出させる。

 「紗良……君が幸せなら、それでいい」
 小さく呟くと、不思議と心が軽くなった。

 彼女を失った痛みは、簡単に癒えない。
 でも、俺の人生はここで終わりじゃない。



 もし、彼女がまた泣く日が来たら――。
 そのときは迷わず駆けつけるだろう。
 たとえ彼女の隣に立てなくても、俺はずっと、味方でいたいから。

 それが、俺にできる最後の「愛し方」だった。
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