十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
 数か月後。
 同僚に誘われて参加したちょっとした交流会。
 賑やかな空気に気疲れしながらも、隣の席に座った女性が笑いかけてきた。

 「佐伯さん、真面目そうですね」
 「……そう見えますか?」
 「はい。でも、優しそうです」

 彼女の笑顔は飾り気がなく、自然体で、どこか懐かしい温もりを感じさせた。



 会が終わり、店を出ると夜風が心地よかった。
 隣を歩く彼女が、少し照れくさそうに口を開く。

 「……よかったら、このあと少し散歩しませんか?」

 驚いたが、不思議と心は軽く頷いていた。
 「ええ、いいですよ」

 夜の街を並んで歩く。
 足並みは自然と揃っていて、沈黙さえも心地よかった。



 「佐伯さん、誰かをすごく大事にしてきた人ですよね」
 ふいにそう言われ、足が止まった。
 振り向くと、真っ直ぐな瞳がこちらを見つめていた。

 ――あの日も、同じことを言われた。
 彼女とは違うけれど、その言葉は不思議と胸に沁みた。

 「……ええ。そうかもしれません」
 静かに答えると、彼女はやわらかく微笑んだ。



 空を見上げると、星がひとつ瞬いていた。
 もう過去に縛られることはない。
 未来に、新しい光が差し込もうとしている。

 「これから、少しずつでいい。……歩いていこう」
 自分にそう言い聞かせながら、隣に並ぶ彼女の笑顔を見つめた。



 ――新しい恋の予感。
 それはまだ小さな光だけれど、確かに俺の胸を温めていた。
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