十年越しの初恋は、永遠の誓いへ

第六章 揺れる心

 「俺のプライベートに、君は関係ない」
 あの冷たい言葉が、耳の奥にずっと残っていた。

 関係ない――そう言われるたび、心は拒絶されているのに。
 なのに、彼の瞳の奥に見えたかすかな揺らぎが、どうしても忘れられなかった。



 夜、自宅のベッドに横たわりながら、私は天井を見つめていた。
 十年前の涙。
 昨日の冷たい声。
 そして、一瞬の視線の迷い。

 「どっちが本当なの……」
 唇から零れた声は、自分でも切なくなるほど震えていた。

 関わらない方がいい。
 そう言い聞かせるのに、気づけば彼を探してしまう。
 会議中も、廊下でも、同じ空間にいるだけで胸がざわめいてしまう。



 数日後。
 残業で遅くなったオフィス。
 コピー機の前で書類を整理していると、不意に背後から声がした。

 「……まだ残っていたのか」

 振り返れば、そこに彼が立っていた。
 「藤堂さん……」
 思わず声が震える。

 「もう遅い。……帰れ」
 冷たく言いながらも、差し出されたのは新品のペットボトルの水だった。

 「これ……」
 「顔色が悪い」
 視線を逸らしながら、短くそう言う。



 喉が熱くなる。
 どうして突き放すのに、こうして優しさを見せるの。
 「……優しいですね」
 自分でも皮肉に聞こえる声で言うと、彼は小さく首を振った。

 「優しくなんかない」
 低く掠れた声。
 「……これ以上、君を巻き込みたくないだけだ」

 「巻き込む?」
 問い返すと、彼は何も答えず、背を向けた。



 残された私は、ペットボトルを強く握りしめる。
 ――やっぱり彼は私を拒んでいる。
 でも、拒まれるたびに、もっと彼を知りたくなってしまう。

 「どうして、こんなに……」
 揺れる心を抑えきれず、涙が滲んだ。

 十年前の傷が、まだ癒えないまま。
 それでも、私は彼に惹かれてしまう。
 ――もう、止められない。
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