十年越しの初恋は、永遠の誓いへ

第七章 触れ合う指先

 金曜の夕方。
 会議資料の準備に追われ、私は慌ただしくパソコンのキーボードを叩いていた。
 提出期限はあと三十分。
 なのに、どうしても数字が合わない。

 「落ち着け……」
 自分に言い聞かせても、焦りで指先が震える。

 そこへ、不意に低い声が降ってきた。
 「どこだ。見せてみろ」



 顔を上げると、すぐ隣に藤堂蓮が立っていた。
 彼はためらいなく椅子を引き寄せ、私の隣に腰を下ろす。
 「えっ……」
 距離が近すぎて、心臓が大きく跳ねる。

 彼の指が伸びて、私のマウスに重なった。
 「あ……」
 思わず息が詰まる。

 冷たい指先。
 でも、微かに触れ合った場所から熱が広がっていく。
 動けないまま、彼の横顔を見つめてしまった。



 「ここだ。計算式が違う」
 短く言いながら、彼は迷いなく修正を入力していく。
 その間も、指先は私の手の甲にかすかに触れ続けていた。

 わざとじゃない。
 ただ偶然重なっているだけ。
 それでも――体中が熱くなる。

 「……ありがとうございます」
 震える声で礼を言うと、彼は画面から目を離さずに答えた。
 「仕事だからな」



 それだけの言葉なのに、触れている指先が離れない。
 「藤堂さん……」
 呼びかけると、彼の指が一瞬だけ止まった。

 けれどすぐに動き出し、何事もなかったようにマウスを私の手から引き取る。
 「もう大丈夫だろう。やれ」

 すっと距離を取って立ち上がる。
 冷たい態度と、触れ合った温もり。
 どちらが彼の本音なのかわからない。



 背を向けて歩き去る彼の後ろ姿を見つめながら、私は自分の指先を握りしめた。
 まだ残っている熱が、心を落ち着かせてくれない。

 ――あの頃と同じ。
 触れ合っただけで、こんなにも揺れてしまう。

 拒まれるたびに、もっと彼を求めてしまう。
 私はもう、止められないのかもしれない。
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