毒舌男子の愛は甘い。


学校も違う。


住んでる場所も違うし、もうバイトで会うこともない。


“偶然”を装って会えるような関係じゃなくなる。



何も伝えないままじゃ。



ただの他人に戻ってしまう…



そんなの、嫌だ。



私はやっと、受け身じゃない恋ができたのに。


ちゃんと、自分の気持ちで“好き”って思えたのに。



だから、ちゃんと伝えなきゃ、言葉にして。


けれど、


そう思えば思うほど、足が、どんどん重くなっていく。



──伝えたら、何かが変わるかもしれない。


勇気を出せば、彼が振り向いてくれるかもしれない。


……だけど。


もし、もしも振られたら?



そのあとの関係が壊れてしまうのが、怖い。


それならまだ、気持ちを隠しておいた方が……。



昨日あんなに決意したのに、いざ本人を目の前にすると、決意が揺らぐ。



(……でも、それって、また“選ばれるのを待つ”だけじゃん)



私は、もうやめたはずだった。



誰かに好かれるのを待つ恋じゃなくて、自分で“選ぶ”って決めた。



それを教えてくれたのは、他でもない──水野くんだったのに。



涙がにじむ。



喉が苦しくて、何も言葉が出ない。



でも黙ってたら、このまま“さよなら”になる気がして。



意を決して、私は声をかけた。



「……水野くん。ちょっと、いい…?」



震える声でそう言うと、凪がぴたりと足を止めて、ゆっくりと振り向く。



「……話したいことがあるの」



目を合わせようとした瞬間、涙が溢れそうになって、慌てて下を向いた。



「あの、あのね?私……」


(……だめだ、泣きたくないのに……)


「…っ」



こんなに好きなのに。ちゃんと伝えなきゃって思うのに。


言葉よりも先に、想いが溢れて、涙がこぼれ落ちそうになる。







———-でもそのとき、凪が静かに言った。
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