毒舌男子の愛は甘い。
「藤宮さん」



不意に名前を呼ばれ、顔を上げる。
そこにあったのは、まっすぐに射抜くような、でも優しい目。


「……ごめん。先に、俺から話してもいい?」

「え…?」


予想もしなかった言葉に、思わず瞬きをする。


「……初めて合コンで会った時、俺が藤宮さんに言ったこと。覚えてる?」


あの日の記憶が、すぐに蘇る。


「私が…典型的にダメンズに好かれるタイプだって」

「それも言ったけど」


凪が苦笑する。けれど、その瞳は冗談の色を含まない。


「…“選ばれる恋じゃなくて、自分で選べ”って……?」


「そう、それ」


彼は小さく頷き、そして息を整えるように一瞬視線を落とす。


「俺さ、あのとき偉そうに言ったけど……今は逆に、"選ばれたい"って思ってる人がいる」


胸が、ドクンと跳ねた。


「その人が笑ってたら嬉しくて、泣いてたら代われたらって思う。……今まで他人にそこまで感情動かされたことなんてなかったのに」


静かな声で、ひとつひとつ言葉を選ぶように話す凪。


「一緒にバイト入るのが、楽しみで仕方なかった。
でもこの前……俺のせいで、泣かせてしまったとき。はっきりわかったんだ…」


心臓の鼓動が早い。


まさか、この先に続く言葉は——



「──俺、藤宮さんのことが好きなんだ」



一瞬で、胸が熱くなる。
視界が滲んで、世界の輪郭がふわりと揺れた。

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