毒舌男子の愛は甘い。
そして──


「……触っていい?」

「……え?」

「ぎゅってしても、いい?」


小さく、でも真剣な声。


まるで、私の気持ちを確かめるみたいに。


「……うん」


頷いた瞬間、凪の腕が私の背中を優しく包んだ。


強すぎず、でもあたたかくて、ちゃんと、想いが伝わる抱きしめ方だった。


(……やば……心臓、うるさい……)


胸の奥で、どくどくと早鐘みたいに響く音が、彼に伝わっちゃいそうで怖い。


でも、離れたくない。


「……ほんとに、俺でよかった?」


「うん、水野くんじゃなきゃ、だめだった」


その言葉に、凪の胸の奥で、なにかがぽんっと重なったような気がした。


静かに、ゆっくりと時間が流れていく。
ひんやりした夜の空気。


でも彼の腕の中は、あたたかかった。
そして、少しして。


「……藤宮さん」

「……ん?」

「……キス、してもいい?」


そっと囁くその声に、胸が跳ねる。


(あ、もう……本当に心臓止まる……) 


顔を上げると、凪は少し照れたように目をそらしながら、でもちゃんと、私を見ていた。


「……うん」


それだけ言うと、彼はゆっくりと顔を近づけてきて、そして、唇がふわりと触れた。


ほんの一瞬。


でもその一瞬が、全部だった。


彼のぬくもりも、気持ちも、全部伝わってくるようで。


唇が離れたあとも、心臓の音は落ち着かなくて、視線を合わせるのが恥ずかしい。


「……顔、赤い」


ふっと笑う凪に、視線を逸らす。


「……だって……」


小さく漏らした声は、夜風に溶けてしまいそうだった。


すると、凪がまたそっと抱き寄せた。


「……もう少し、このままでいて」


その低い声に、胸がきゅっと締めつけられる。


(──ああ、ちゃんと“選べて”よかった)


彼の腕の中で、心からそう思えた。
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