家族になった来栖くんと。
彼が手にしたボストンバッグが、地面に落ちた。
この言葉で表現していいならば、確かに来栖くんは私の発言に少なからず動揺したのだと思う。
「…ああ、そう…だよな」
力なくつぶやいたかと思えば、彼は私に近づいて腕を伸ばしてきた。
触れるか触れないかのぬくもりで撫でられた、頬。
「っ、くるす、」
「白山さんなら、大丈夫」
「え…」
「…俺のことなんか忘れるくらい…幸せになりなよ」
どうして、どうして。
どうしてこういうときに限って、あの頃と同じ顔で、あの頃と同じ声で、あの頃と同じすべてを持って。
私に触れてくるなんて……ズルい。
「俺、安口さんと付き合ってる」
「っ、」
「…白山さんと違って俺とおなじ高校に入ってくれて…嬉しかった」
「っ…、そっ…か、……ごめん…ね」
「……これでいーよ」
私より震えている手で、私より震えている唇で、なにが「これでいい」の。
最後まで来栖くんは嘘つきだ。
私が泣きそうに堪えるたびに、目の前の瞳が「ごめん」と伝えてくるみたいに揺れること。
「来栖くんも…しあわせにね」
「…俺は…白山さんが笑ってんなら、いい」
もうあんなレシートとかチケットなんか捨てなよ───、
消えそうな声でそう言って、彼は振り向くことのないまま私の前から立ち去った。