氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
「申し訳ございません、リーゼロッテ様。ただ今、(あるじ)は来客中でして、お話は午後から改めさせていただいてもよろしいでしょうか? せっかくお越しいただいたのに、こちらの不手際(ふてぎわ)で連絡が間に合わず、誠に申し訳ございません」

 執務室に行くとすまなそうな顔をしたマテアスに、深々と頭を下げられた。

「まあ、そんな、頭を上げて。ジークヴァルト様はお忙しいのですもの。わたくしのことは気にしなくて大丈夫よ」
「はぁ……いつもいつもリーゼロッテ様のご厚意(こうい)に甘えてしまい、申し訳ございません」

 困り眉を下げて言うマテアスに、リーゼロッテは微笑み返した。そう思うなら、夕べのような仕打ちはあれきりにしてほしい……頭ではそんなことを考えながら。

「代わりと言っては何ですが、今朝方(けさがた)早くに、アデライーデ様がお戻りになられています。リーゼロッテ様のお時間が()けばいつでも部屋に来てほしいとおっしゃっていましたから、これから会いに行かれてはいかがでしょう?」
「まあ! アデライーデ様が?」

 思わず声が(はず)む。ジークヴァルトの姉であるアデライーデは、公爵令嬢にもかかわらず王城の護衛騎士団に所属している。今は遠方で任務にあたっていると聞いていたので、まさか今日会えるとは思ってもみなかった。

「でしたらわたしがアデライーデ様のお部屋までご案内しますぅ」
 後ろで控えていたベッティがマテアスに視線を送る。

「はい、ベッティさん、よろしくお願いしますね」
 マテアスに見送られて、ふたりは廊下を歩きだした。その後ろをカークがゆっくりと着いてくる。

「ベッティは、アデライーデ様のお部屋の場所を知っているの?」

 ベッティは最近この公爵家に来たと聞いている。それなのに彼女の足取りにはまったく迷いがなかった。不思議に思ってリーゼロッテは目の前を歩くベッティに問いかけた。

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