氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 涙目になりながら、リーゼロッテはふるふると頭を振った。

「今日の贈り物は素敵な小箱ね。さすがフーゲンベルク領の細工は繊細で美しいわ」

 ほうと感嘆のため息をついたあと、クリスタは誇らしそうにリーゼロッテを見やった。

「ふふっ、リーゼは本当にジークヴァルト様に愛されているわね。王都の流行りのお菓子に花束、ドレス、装飾品までありとあらゆるものを贈られているもの」
「いえ、愛されているとかではなく……ジークヴァルト様はとても責任感のある方なのですわ……」

 あれは婚約者として義務感にかられてやっているだけなのだ。意気消沈したようにうつむくリーゼロッテに、ジルケは不思議そうに首をかしげた。

「何か心配なことでもあるの?」
「心配ごとなどではないのですが……頂くばかりで心苦しいと言うか……その、もう少し回数を減らしていただけたらと……。もちろん贈り物はうれしいのです。うれしいのですが、さすがに毎日は頂きすぎなのではないかと思っていて……」
「まあ」
「やだ、リーゼ、あなたそんなことを気に病んでいるの!?」

 微笑ましそうな反応のクリスタに対して、ジルケは盛大に吹き出しながら言った。

「馬鹿ね、贈り物くらい殿方に好きなだけさせておけばいいの。いい? リーゼ。贈り物っていうのはね、受け取った時点でもうその役目は終わっているの。受け取った後、それが使われようがどうしようが関係ないのよ。使いたいものは使えばいいし、気に入らなかったら売るなり捨てるなりしてしまえばいいわ」
「そんな……せっかくいただいた物を捨てるだなんて……」
「使われずに日の目を見ないなら、売り払って寄付に回した方がよっぽど世のためよ」
「そのかわり、大事に取っておきたいものは大切に使えばいいわ」

 クリスタが助け舟を出すようにやさしく付け加えた。

「……リーゼはどうしてこんな謙虚な娘に育ったのかしら? アンネマリーもあまり物に頓着しない子だけど、それにしたってもう少しは物をねだるわ」
「リーゼにはずっと我慢のさせ通しだったから……もっと欲張りさんになってもかまわないのよ?」

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