氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ふふ、そうかしら? だとしたらうれしいわ」

 クリスタがそう言って微笑むと、リーゼロッテは思わずクリスタに抱きついた。

「わたくしもうれしいですわ、お義母様」
「あら、成人を迎えたというのにリーゼはまだまだ甘えん坊ね」

 ジルケにそう笑われたが、リーゼロッテはクリスタにさらにすり寄った。

「……リーゼも随分と大きくなったわね。背丈ももうすぐわたくしと同じになりそう」

 慈しむようにクリスタが髪をなで、リーゼロッテは甘える子猫のように目を細めた。

「お楽しみのところ失礼いたします。リーゼロッテお嬢様、先ほど公爵様よりお手紙と贈り物が届きましてございます」
「まあ!」

 伯爵家家令のダニエルの言葉にジルケが大げさに反応した。今回ジークヴァルトから届けられたものは、かわいらしいピンクの花束と見事な装飾の小物入れ、そして昨日送った手紙に対するそっけない返事だった。

「ジークヴァルト様は、こうやって毎日欠かさずリーゼに贈り物をしてくださるのよ」

 クリスタがいたずらっぽく言うと、リーゼロッテは微妙な表情になる。

「若き公爵様が婚約者にご執心という噂は、本当だったようね」
「そんな噂があるのですか?」

 ジルケの言葉に、リーゼロッテは目を丸くした。

「わたしはアンネマリーから聞いたのだけれど……王城勤めの女官や侍女経由で、社交界にも広まっているようよ。最近わたしが参加したお茶会でも、みなリーゼのことをあれこれと探りを入れてくるもの。デビュー前から社交界の話題をさらうなんて、さすがわたしの姪っ子だけあるわね」

 ばちんとウィンクされ、リーゼロッテは閉口した。王城でジークヴァルトに抱っこされて運ばれていたことも貴族の間で噂になっているのだろうか。

(恐ろしくて聞けない……)

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