氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 公爵家には温泉水が引かれているので、水が凍るような冬場には洗濯にも湯が使えた。しかし温泉水は石鹸(せっけん)の泡立ちが悪いので、本格的な冬までは水で洗濯する決まりになっている。

「あれぇ? みなさん、お洗濯ですかぁ? 今日も精が出ますねぇ」

 たまたま通りがかったベッティが三人娘に声をかけた。精が出ているのはもっぱらおしゃべりの方だが、あえてそこは突っ込まない。おしゃべりは女のストレス発散源だ。ベッティも無粋(ぶすい)なことは言うつもりはもちろんなかった。

「あ、ベッティさん、こんにちは! 今日はエラ様はご一緒じゃないんですか?」
「エラ様はぁ、今回はこちらにいらしてないんですぅ。ですので、今日はリーゼロッテ様づきのお仕事していますぅ」
「ええ? うらやましい! それでリーゼロッテ様は今どちらに??」

 三人娘は首がもげそうな勢いで、辺りをきょろきょろと見まわした。

「リーゼロッテ様は先程(さきほど)、旦那様とおふたりで乗馬に行かれましたぁ。リーゼロッテ様は馬には乗れないそうなのでぇ、旦那様と相乗(あいの)りで出かけられましたよぉ」
「乗馬?」
「はい、乗馬ですぅ」
「相乗り?」
「はい、横抱きの相乗りですぅ」

「旦那様と!?」
「リーゼロッテ様が!」
「「「密着(みっちゃく)相乗(あいの)りランデヴー!!」」」

 三人娘が洗濯泡を飛ばしながら、息の合った声を上げる。

「ほらぁ、旦那様やっぱり嫉妬よ!」
「リーゼロッテ様の小悪魔作戦、成功してる!」
「旦那様、必死ね! 必死なのね!」

 きゃいきゃい騒ぐ三人娘の周囲は泡だらけだ。そんなことはお構いなしに、三人は泡泡(あわあわ)の手をがっちり重ねあわせた。

「なんにせよ……」
 三人は目くばせをして頷きあう。

「「「頑張れ旦那様!!!」」」

 三人娘の声援(エール)は、寒々しい曇天(どんてん)の空へ、高く大きく響き渡ったのであった。 


< 126 / 684 >

この作品をシェア

pagetop