氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 ざあっと草原を冷たい風が駆け抜ける。
 ジークヴァルトは慎重に手綱(たづな)(あやつ)り、馬をゆっくりと歩かせていた。

 自分の目の前の馬の背に、横抱きに乗せたリーゼロッテを(うかが)いみる。怖がっている様子はないが、吹く風にその頬がいつもより赤くなっていた。
 もっと厚着(あつぎ)をさせるべきだったろうか? 本格的な冬が来るのはまだ先だが、そろそろ初雪がちらついてもおかしくない時期だ。

「寒くはないか?」
 問いかけながら、細い腰に回した腕にぐっと力を入れた。遠慮がちに離れていた体を自分の胸に引き寄せる。

「はい、大丈夫ですわ」
 そう言ってリーゼロッテはジークヴァルトをはにかむ笑顔で見上げた。

「そうか」と返すと、ジークヴァルトはリーゼロッテから目をそらし、馬の歩くその先のはるか遠くを見据(みす)えた。

 彼女に微笑みかけられると、どうしたらいいかわからなくなる。胸の奥がざわついて、一瞬で思考が飛んでしまう。ジークヴァルトは自分の中ではじけそうになる何かを慌てて抑え込んだ。

 その衝動(しょうどう)が一体何なのか、自分でも理解ができない。だが、ソレの(おもむ)くまま、身をゆだねるのは危険だと理性が告げている。

 ぎゅっと眉根(まゆね)を寄せると、ジークヴァルトは無言で馬のわき腹を軽く()って馬を走らせた。

 リーゼロッテの様子を確認しながら、速度を上げていく。リーゼロッテは(りき)むことなく馬の動きに身をゆだねていた。

(馬にもだいぶ慣れたようだな……)
 そう思うと自然と口元がほころんだ。

 屋敷の裏から続く(ゆる)やかな登り勾配(こうばい)の小道を登りきると、領地の街並みが見渡せる高台へとたどり着く。そこはジークヴァルトの子供のころからのお気に入りの場所だった。

 ひとりきりになりたいとき、いつも馬を()ってはこの場所にやってきた。
 時には暮れ行く街並みを眺め、時には朝焼けに街が目覚めるさまを、マテアスが迎えに来るまで何時間でも()くことなく見つめていた。

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