氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ヴぁ、ヴァルト様……」

 戸惑った声が外套の中から聞こえ、ジークヴァルトは上のボタンをいくつかはずした。ぷはぁといった(てい)でリーゼロッテが顔をのぞかせる。
 不格好な二人羽織(ににんばおり)のような体勢に、寒さとは違う意味でリーゼロッテの頬が染まった。

「寒くはないか?」
「……はい、とても暖かいですわ」
「そうか。……そろそろ戻るぞ」

 そう言って、ジークヴァルトは馬の首を反転させた。そのまま二人を乗せた馬は軽やかに走り出す。

 屋敷の(うまや)にまで戻ってくると、ジークヴァルトは外套の中からリーゼロッテを解放した。その様子に、使用人たちの生温かいまなざしが向けられている。

 先に馬から降りたジークヴァルトは、リーゼロッテの脇に手を差し入れると、やさしい手つきで馬からそっと降ろした。

 おもむろに脱いだ外套をリーゼロッテの肩にかけると、大きすぎるそれでリーゼロッテをぐるぐる巻きにしていく。ミノムシのような状態にさせられたリーゼロッテは、身動きできずに驚いた顔で固まっている。

「抱くぞ」
 かがみこみながら耳元でそう言うと、ジークヴァルトは外套にくるまれたリーゼロッテをひょいと横抱きに抱え上げた。

「ひゃっ」という小さな悲鳴が聞こえたが、そのまま有無(うむ)を言わさず屋敷の中へと進み始めた。

「あの、ヴァルト様……わたくし自分で歩けますわ」
 リーゼロッテが頬を染めながら、困ったように見上げてくる。

「問題ない」

 そうとだけ言って、ジークヴァルトはゆっくりとリーゼロッテの部屋まで足を進めた。そんなふたりの背中を、使用人たちの微笑ましそうな視線が、どこまでも見送るのであった。


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