氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
「ふんふんふ~ん♪」

 鼻歌を歌いながらアデライーデは屋敷の廊下を歩いていた。供もつけずにいるのは、小言を言う気心の知れた侍女をまんまと()いてきたからだ。
 公爵令嬢という立場から単独行動をとるのはいかがなものだが、騎士として日々鍛錬(たんれん)を欠かさないアデライーデを(おそ)うものなどこの屋敷にいるはずもない。

 目指すはジークヴァルトの執務室だ。
 久しぶりの実家であるが、(ひま)を持て余してしょうがない。今頃はリーゼロッテといちゃついている頃だろうから、ここはジークヴァルトをからかいに行くしかないだろう。

 執務室の少し手前で、アデライーデは一人の侍女とすれ違った。その侍女はアデライーデに(ひか)えめに礼をとると、足早に廊下の向こうへと去っていく。

「あら? 今のベッティじゃなかった……? どうしてあの()公爵家(うち)にいるのかしら?」

 そう首をひねったものの、執務室のドアノブを回す頃にはそんなことは頭から消えてしまう。

(さあ、どうやってからかいたおそう!)
 嬉々(きき)として、アデライーデは乱暴に執務室の扉をノックもせずに開け放った。

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