氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「カークもおりますし、護衛の方がいらっしゃれば大丈夫かと……わたくし、無茶はしないとお約束いたしますわ」

 ダーミッシュの屋敷での生活は特にトラブルなく過ごせている。前回はエマニュエルに来てもらっていたが、異形の者がらみで迷惑をかけることは一度もなかった。

 ジークヴァルトは無言で考える仕草をした。
 護衛ができる力ある者といえば、ユリウスとエーミールとヨハンの三人がいる。ユリウスはもう四十代だが、いずれにせよ三人は未婚の男だ。しかも、婚約者など決まった相手もいない。

 のべつ(まく)なし女性に手を出すユリウス。若い令嬢に人気のエーミール。そしてとにかく()れっぽいヨハン。どれをとっても不安材料ばかりだ。

 リーゼロッテの言うことは最もで、今選択できる最善のことだと理解はできる。それなのに、ジークヴァルトは了承(りょうしょう)(がた)く思えて、眉間のしわをさらに深くした。

「あのう……」
 離れた場所から控えめに声が発せられた。

「差し出がましいようですがぁ、よろしければわたしがリーゼロッテ様のお供をいたしましょうかぁ?」

 それまで黙って(ひか)えていたベッティが壁際(かべぎわ)からこちらを見ている。

僭越(せんえつ)ながらぁ、わたしも多少は力を扱えますのでぇ、ちょっとした異形の者なら追い払うくらいはできますよぅ」
「ああ、ベッティさんがいてくだされば心強いですね」

 マテアスが「いかかですか、旦那様?」と問うと、ジークヴァルトはしばらくの沈黙ののちに、「ああ」と短く了承(りょうしょう)()を伝えた。

「では早速、出立(しゅったつ)の準備にとりかからせていただきますねぇ。あちらへ向かうのはいつ頃になりますでしょうかぁ?」
「明日にでも出られるよう手配してくれ」
「承知いたしましたぁ」

 頭を下げたベッティは、そのまま執務室を出て行った。

「リーゼロッテ様、(あわ)ただしくなってしまい申し訳ありません。今日一日は旦那様とゆっくりなさってくださいね」

 にっこり笑うマテアスの頭の中では、今宵(こよい)のふたりの晩餐(ばんさん)計画が着々と進行しているのであった。



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