氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「どんな権利だ」
 それに触りたい放題になどしていない。最近は無理やりでも自制しているというのに、ジークヴァルトにしてみれば姉と言えども許しがたい所業と言えた。

 (あき)れと嫉妬(しっと)が混じったジークヴァルトの声音(こわね)をよそに、アデライーデはリーゼロッテの瞳を覗き込みながら「あるわよね? リーゼロッテ」とその頬をなでた。
「ふふ、わたくしもアデライーデお姉様とこうしていられてうれしいですわ」

 マテアスが「アデライーデ様……」と、非難がましく新しい紅茶を差し出してくる。アデライーデは間に入られないよう、さらにきつくリーゼロッテを抱きしめた。

「本人がいいって言ってるんだから問題ないでしょ?」

 悪びれないアデライーデに、マテアスは大仰(おおぎょう)にため息をついた。

辛気(しんき)(くさ)い従者ね。あっちいってて」
 しっしとマテアスを追い払う仕草をする。

「ああ……ずっとリーゼロッテとこうしていたいけど、わたしも明日には任務に戻らないとなのよね。リーゼロッテの帰郷(ききょう)にも付き合えたらよかったんだけど」
「まあ、また任務なのですね。わたくしはそのお気遣いだけで十分ですわ。でも、お怪我なさらないよう気を付けてくださいませね?」

 こてんと小首をかしげるリーゼロッテに、アデライーデが身もだえている。

「ああん、やっぱり持って帰りたい……!」
「やめてください。騎士団の任務などにリーゼロッテ様をお連れするなど」

 あんな筋肉だるまのむさくるしい集団の中にリーゼロッテを連れて行くなど、想像するだけで恐ろしい。

「冗談に決まってるでしょ。堅苦(かたくる)しい従者ね、もうどっかいって」

 おざなりに言うアデライーデを(あお)ぎ見ながらリーゼロッテは微笑んだ。

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