氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「あまり言うとマテアスが泣いてしまいますわ。それに……マテアスはきっと、お姉様のことも心配なのですわ」
 ね? とリーゼロッテがマテアスを見上げると、マテアスは一瞬驚いたような顔をして、それからやさしく微笑んだ。

「ええ、もちろんでございます。ですが……アデライーデ様には、大公(たいこう)閣下(かっか)がついておられますから」
「大公閣下?」
王兄(おうけい)殿下(でんか)であらせられるバルバナス様でございますよ」

 そう言ってマテアスは生温かい目でアデライーデをみやる。その視線を受けて、アデライーデはおもしろくなさそうに、ぷいっと顔をそむけた。

「そういえば……カイ様がいらっしゃったとき、そのようなことをおっしゃっていましたわね」
「カイ……? ああ、王城からの視察で公爵家に来ていたそうね。あ、カイと言えば、今日ベッ――」

 そこまで言ってアデライーデは、言いあぐねるように何度か口をパクパクとした。

「べ……?」

 リーゼロッテが不思議そうにアデライーデを見ると、アデライーデは口をつぐんで首を横に振った。

「いいえ……何でもないわ」
 真剣な顔でそのまま押し黙る。アデライーデはぎゅっと眉根を寄せた。

(今の……龍が、目隠(めかく)しをした……?)

 アデライーデは龍から託宣を受けた身ではないが、龍の目隠しの存在は知っている。
 託宣を終えた者たちは、次代の託宣を受けた者たちに多くを語らない。どんなに困った事態に(おちい)ったとしても、託宣にまつわることに関して助言することもない。

 しかしそれは語らないのではなく、語れないというのが本当のところだ。どんな力の作用なのかはわからないのだが、言いたくとも言葉にならないらしい。

 『龍の目隠し』と呼ばれるこの現象は、託宣に関する情報がむやみに広がらないためのものだと考えられていた。

< 147 / 684 >

この作品をシェア

pagetop